「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

にぎわい空間創出FORUM2018
Event Report

にぎわい空間創出FORUM2018

研究セッション③
“空間のクラウド化”が起こした『ライフスタイル革命』

2018.12.20facebook


編著:にぎわい空間研究所編集委員会
「にぎわい空間創出FORUM2018」セッション③
 

“IT×リアル”への挑戦がビジネスを創出し、
人々の体験や時間の価値を高めていく

 リアル空間には、「今だけ、あるだけ、この場だけ」という制約がある。だが、実空間をネットで接続する「空間のクラウド化」は、離れた場所にある実空間を、「いつでも、どこでも、いくらでも」活用できるにした。空間ビジネスは今、空間のクラウド化によって無限の可能性を手に入れようとしているのだ。

 研究セッション③「“空間のクラウド化”が起こした『ライフスタイル革命』」 では、「クラウド空間ビジネス」という前代未聞のイノベーションを引き起こし、既存の空間ビジネスの概念を打ち破った2人のファーストペンギンが登壇する。

 個人から預かった荷物を写真撮影してデータ化し、端末から管理できるようにするとともに、様々なウェブサービスとの連携を可能とした「minikura」を開発時から率いてきた月森正憲。そして、クラウド上にクローゼットを持ち、通勤着などの普段着を選ぶ毎朝の悩みから女性を解放したファッションレンタルサービス「airCloset」を展開する天沼聰である。

 空間ビジネスをリアル空間の制約から解放し、私たちの生活に画期的な変化をもらし始めている「空間のクラウド化」。空間の限界を突破し、新たなライフスタイルを世に提示した二人のパイオニアが登壇する。
 

【パネラー】
月森正憲(寺田倉庫 専務執行役員)

天沼聰(株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼CEO)

【担当研究員】
入谷義彦(にぎわい空間研究所 主席研究員)

【モデレータ】
池澤守(株式会社池澤守企画 代表取締役)

 
 

(文中敬称略)



リアルの「有限空間」が
「無限の空間資産」に変わる

池澤:まずは担当研究員の入谷さんにお伺いします。このセッションの狙いについてお聞かせください。

入谷:にぎわい空間研究所の主席研究員、入谷と申します。今回の研究テーマを選定した背景を簡単にご説明します。

 いつの世も空間は有限を伴い、リアル空間事業者の方々、そしてリアル空間を利用する人々は、工夫に工夫を凝らしながら、限られた空間を、より効率的に、より有効的に利用してきました。

 日々、限りある空間をさまざまなコンセプトで定義し、今までにない空間活用のアイデア、今までにないスタイル提案、新たな暮らし方、住まい方など多様なライフスタイルを生み出してきました。

 しかし、今日のIT革命は空間に大きな変化をもたらしたと感じています。eコマース・流通の進化とともに、今、モノを売る場所は、リアル空間の何十、何百倍もの空間を保有し、また人の集まる場所もSNSの進化とともに世界中に存在するようになりました。今、空間はリアルな「有限空間」ではなく、「無限の空間資産」となりつつあると感じています。

 本日の主題は、有限な空間をITテクノロジーで無限化させ、離れた場所にある倉庫や、自宅以外のクローゼットが、スマホなどのIT端末を使って自在に活用できるようになった『空間のクラウド化』です。
 
空間のクラウド化は、空間のある場所、空間にアクセスする時間、そして空間の規模、という3つの物理的な制約から空間ビジネスを解放した。

 空間のクラウド化による新たなライフスタイル定義の誕生と、無限の空間資産を生み出し事業化させた取り組みや、今の事業トレンドを解明したいと考え、今回の研究テーマとさせていただきました。本日は、よろしくお願いします。

池澤:無限空間ビジネスということですね。ありがとうございます。


拡大路線をやめ、最適にモノを
管理する仕組みづくりを目指す

それでは、「“空間のクラウド化”が起こした『ライフスタイル革命』」について、パネラーのお二人に伺っていきたいと思います。まずは、事業の狙いと経緯についてお聞かせ願えますでしょうか。月森さん、いかがですか。

月森:まず、背景からですが、寺田倉庫は創業68年の倉庫会社です。私が入社した20年前、主力は法人向け物流サービスでした。私も現場を7年、営業を8年経験しました。
 
月森正憲(寺田倉庫 専務執行役員)
 
  法人営業メインの時代は、荷主さんからお預かりする荷物をより多く獲得するため、倉庫設備を増やしていくといった拡大路線に走っていました。
 
 一方、弊社では個人向けのトランクルーム事業(Private Stockroom)も行っていますが、その市場に不動産事業者が次々と参入し始め、「我々も店舗を増やさないと、利用者を増やせない」と、この分野でも拡大路線を取る方針を考えていたのです。

 そんな中、8年ぐらい前に社内改革が起き、拡大路線に向かうのはなく、「我々の強みであるモノの取り扱い方や最善の保管方法のノウハウを活かし、仕組みづくりに向かっていくべき」という方針に舵を切ったのです。
 
創業期の寺田倉庫の倉庫群(写真提供:寺田倉庫)
 
 そして、従業員は1000人規模から100人ほどに、倉庫施設などの拠点もミニマムに絞り、会社全体がだいぶスリム化しました。変化に対応できる社内体制をとりながら、弊社の得意とする仕組みづくりを8年間磨いてきました。


管理技術を個人荷物にも生かす発想から
前代未聞の保管サービス“minikura”が誕生

月森:そんな中、ある日私は次世代のトランクルームを考える「新規事業プロジェクト」の責任者に任命されました。
 
 法人物流と個人向けサービスには大きな違いがあります。個人向けであるトランクルームはスペースをお貸しするだけで、実際に中に何が入っているかには私どもは関知しません。ただ私には、20年前の入社時、物流の現場でお預かりした荷物を荷主さんの代わりに一点一点管理する仕事をしていた経験がありました。
 
minikuraのアイテム撮影風景。倉庫スタッフが撮影を行う(写真提供:寺田倉庫)

 なぜ、法人物流では箱を開けて一点一点荷物を取り出すことができるのに、個人の荷物を取り扱ってはいけないのか? そういうジレンマがありました。それと同時に、我々のモノを管理するという強みを個人からの荷物の預かりにも生かせると思いました。その必然の流れから生まれたのが2012年にリリースした「minikura」というサービスでした。

池澤:ありがとうございます。

 
新しいファッションとの出会いを
生みだすITサービスを創りたい

池澤:一方のairClosetはいかがでしょうか? 天沼さん、よろしくお願いします。

天沼:エアークローゼットの天沼です。寺田倉庫の月森さんとは、airClosetの立ち上げの前年からお付き合いさせていただいています。寺田倉庫なしではairClosetは生まれませんでした。
 
 エアークローゼットは2014年に会社を3人で設立したのですが、その時は「レンタルをやるぞ!」と創業したわけではありませんでした。ライフスタイルに対して、新しいモノとの出会い方を創りたいと思ったのが最初のスタートでした。
 
天沼聰(株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO)
 
 airClosetは月額9,800円(税別)のファッションレンタルサービスをやっています。ウエディングドレスや晴れ着などの貸衣装ではなく、普段着に特化したレンタルサービスを行っています。
 
airClosetのウェブサイト。https://www.air-closet.com
 
 「モノとの出会い」に行き着いたのは、女性のライフスタイルを見たときに、ゆっくりファッション誌を見る時間が減っていることに気づいたからです。女性の仕事が忙しくなっています。子育てが始まると自分に対する時間の使い方が変化します。新しいブランドに出会う機会も減り、買い物に出かける機会も減ります。出かけたとしても、抱っこ紐をしているので試着ができません。

 そもそも、お洋服に出会うタイミングは、どんどん減る一方だと感じました。私たちの調査では、新しくブランドとの出会いは年間に3ブランドから4ブランドで、ほとんどの方が新しいブランドではなく、これまで出会ったブランドを購入し、試着も自分が似合うであろう色味やデザインを固定概念で選んでいます。すごくもったいないと感じました。
 
【ファッションに関する時間についての悩み】対象者:25~59歳(提供:株式会社エアクローゼット)
 
 もっと似合う洋服があるかもしれない。もっとコーディネートを試してもよい。そう思いました。そこで、実生活の中で日々、新しいファッションとの出会いが生まれるサービスを創りたいという思いでスタートしました。

 その発想から、お客様が自宅にいながらにして新しいファッションにどんどん出会えるサービスを提供したいと思いました。
 
洋服を送るボックスも、airClosetが小さな「感動体験」を提供する手段だ(提供:株式会社エアークローゼット)
 
 それと、「このお洋服を借りたいから借りる」では、経済合理性でのレンタルになってしまいます。そこで、私たちのスタイリストが洋服を選び、送付するスタイルを取れば、その方の固定概念の外にあるかもしれないものに出会っていただけるのではと思いました。モノとの出会い方にキュレーションを入れたいと思ってサービスを設計しました。

 月額制で借り放題にしようと考えました。さまざまな生活リズムがあるので、借り放題のスタイルにして、クリーニングもairClosetで行う。お客様には洋服を検索する時間や選ぶ時間を使わずに、とにかくファッションを体験することに集中できるサービスにしようと考えました。
 
airClosetの3つのポイント(提供:株式会社エアークローゼット)

 
airClosetの実現を後押しした
minikuraとの運命的な出会い

天沼:ただ、既存の倉庫の業務フローだと、それは難しいのです。都内近郊の倉庫会社を色々と回り、自分たちが実現したい物流や倉庫内の作業を説明しましたが、なかなか良い倉庫会社と出会えませんでした。この事業は、良い倉庫会社と出会えなければ立ち上げられないと思っていました。
 
 minikuraを知り、素晴らしいサービスだと思いました。平成26(2014)年8月に寺田倉庫に電話をして、説明をして、その日には月森さんに「できますよ、やりましょう!」と言っていただけました。

月森:意気投合しましたよね。
 
天沼:しましたね。そのままホワイトボードに業務フローを書きながら、「ここをこう変えれば実現できるかもしれない」と議論をしました。
 
 私たちはレンタル事業を展開していますが、あくまでも目的は人とモノとの出会いを最適化したい、人とモノとの出会いを科学したい、というのがスタートでした。今も、そこに集中しています。
 
 
 気に入ったアイテムに出会えばそのまま買うことができます。着心地やサイズ感、色味など、お客様が洋服の感想をデジタルデータで集め、人工知能のアルゴリズムに入れて、お客様に合うアイテムの提案に使っています。また、横串で見ていくと、トレンド情報としても使えます。そういったデータの活用にも注力をしています。モノと人の出会いを科学したいと思っています。

月森:天沼さんとはサービスを始める前に出会いましたが、見るたびにおしゃれになっていきます。元々はファッションではなく、ITの領域でしたよね。
 

天沼:元々、ロンドンの大学を出て、IT戦略系のコンサルタントに10年弱在籍し、そのあと楽天のeコマースの会社に転職をして、グローバルマネージャーをしてから起業をしています。ですので、IT業界ですね。
 
月森:出会った頃はファッションの「ファ」の字も知らなかった。ポロシャツにチノパンでした。
 
天沼:すごいカジュアルに、こういうことをやりたい、と言っていました。
 
月森:「SS(spring-summer)って何ですか?」って聞いていましたよね(笑)。
 
池澤:ありがとうございます。運命的な出会いをされたのですね。

 
新たな市場誕生に期待し、
minikuraのAPI化に着手

池澤:その結果、「空間のクラウド化」と我々は定義したのですが、インターネットを介して今までのサービスのスタイルが劇的に変わっています。そして、消費者のライフスタイルが変化しています。月森さん、いかがですか?

月森:寺田倉庫では物流プラットフォームを提供しています。6年前に立ち上げたminikuraは、個人のお客様から預かった箱を開けて入っているモノを一点一点撮影し、データ化しています。単に荷物を預かるだけでなく、ヤフオク!への出品や衣類のクリーニングなどのサービスを付加しています。
 
 直感的に気づいたのは、この物流の仕組みをAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)化すれば何か新しい市場が生まれるのではということです。minikuraは平成24(2012)年9月立ち上げですが、平成25(2013)年にはminikuraのAPIを開発しました。その頃、エアークローゼットとも出会いました。私は「人がやっていることを、システム化できないことはない」と思っていました。
 
APIの開放によってminikuraシステムと事業パートナーのサービスがシームレスで連携
 
 最近では、サービスの検索や開始、停止がすべて手のひらのスマホでできます。アプリをダウンロードし、気に入らなければ削除する。手のひらで完結しているのです。
 
 我々はプラットフォームなのでサービスを作る会社と色々と協議するのですが、悩んで悩んで何かを始める人が減ってきたように思えます。実証実験をやる感覚で、まずアプリを作るという動きが最近は多くなっています。
 
 minikuraを立ち上げ、そのAPIを作り、その後、大手企業にアプローチをし、バンダイ(魂ガレージ)やエニグモ(BUYAMA)などにも採用していただきました。

 
一瞬で物流機能を持てる
「minikura+」を開発

月森:そこで運良く出会えたのがスタートアップ企業でした。彼らは、スピード感を持っているし、強い意気込みで相談に来る。だから、3カ月で一緒にサービスを作ることを打ち出しました。
 
 きっと天沼さんもおそらく、POC(概念実証)の領域から始めようというノリだったように思えます。市場はどうなるか分からない中、スタートアップベンチャーは石橋を叩くこともなく、潔いと思いました。
 
 スタートアップに寄り添っていくと、大手企業からも反響が出始め、大手の新規事業開発室からも問い合わせをいただくようになりました。minikuraの取り組みとして、直近では即時に物流機能が持てて、最近ではECサイトと物流が連携する仕組みもすぐに提供できる「minikura+」の開発が挙げられます。
 
シェアリングサービス、EC、C to Cなどあらゆる事業に物流面から支援するプラットフォーム「minikura +」
 
 従来、大手企業はコンサルティング企業に依頼をして、コンサルの音頭でさまざまな企業をアサインする流れで新規事業を構築しますが、そうするとシステムの構築だけで数億円かかることもざらです。新規事業の新しい選択肢の一つとして、即時に物流を持てて、即時にネットショップを持てる。そんなプラットフォームを開発しました。
 
 最近はライフスタイルも手のひらにあるスマホによって一瞬で検索ができ、サービスに申し込める時代に突入しました。事業者も一瞬でサービスを立ち上げる。そういうスピード感のある新規事業開発が、ベンチャーだけでなく、大手の会社でもジワジワと増えてきたと感じています。

池澤:物流プラットフォームの誕生と進化が、ビジネス創出のマインドも変えているのですね。

 
個々人に合った洋服を選ぶ
「パーソナルスタイリング」

池澤:天沼さんはいかがでしょう。
 
天沼:airClosetはB to Cのサービスなので、第一にお客様の体験が重要です。社内ではUX(ユーザーエクスペリエンス)の重要性を社員の耳にタコができるぐらい唱えています。では、ユーザーエクスペリエンス、お客様体験とは何か? いわゆる「モノ消費からコト消費」への変化はあります。モノが中心ではなく、そのモノを使ってお客様がどのような暮らしをするのかがより大事なのです。では、そのときに私たちはどのようなサービスを提供できるのか? そこを徹底的に考え続けていきたいな、と思います。
 
 弊社ではメインでサービスを三つ動かしています。一つ目はファッションレンタルのサービス、「airCloset(エアークローゼット)」です。二つ目は、「airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)」というものです。不動産のエイブルと協業し、表参道・原宿エリアにリアル店舗があります。ファッション・レンタルショップです。三つ目は「pickss(ピックス)」というサービスです。airClosetという冠をとってやっているのですが、最初の二つはレンタル事業で、こちらはEC(電子商取引)です。販売に寄ったサービスです。
 
mairCloset×ABLEの店内。エイブルは女性向け会員制度の特典としてサービスを活用している(提供:株式会社エアークローゼット)
 
 このすべてに共通項としてもっているのが「パーソナルスタイリング」です。一人ひとりに合ったスタイリングを提供することに注力しています。
 
 airClosetではこれまで、洋服を送るボックスで同じコーディネートを使い回したことはありません。必ず、一人ひとりから送られた感想をもとに、次のコーディネートを行っています。
 
特許取得「スタイリング提供システム」の操作画面と特許証(提供:株式会社エアークローゼット)

 
ネット上の匿名性から人々解放し
信頼関係構築を可能としたスマホ
 
天沼:ライフスタイルを取り巻く、近年の最大の革命はスマートフォンの普及だと思います。かつて、インターネットは限られた人しか接続していないものでした。会社では接続できたかもしれませんが、家で接続するのはごく一部の人でした。
 
 携帯電話でiモードが登場しましたが、検索や画像は難しかった。スマートフォンの登場によって、それを手に持った人すべての人にとってインターネットが身近なものになりました。
 
 そして、SNSの隆盛です。以前は、インターネットに実名や住所を登録することすら怖い時代がありました。みんな、ハンドルネームを使っていました。その匿名性から一気に解放したのがスマートフォンだったと私は思います。
 
 先ほど、重松さんたちが話していたシェアリングエコノミーの概念は私もとても好きです。シェアリングエコノミーのサービスは「人と企業」や「人と人」に信頼関係がないと成り立たないものだと思います。それがインターネットを介してできるようになり始めたのは、スマートフォンが登場し、人々が匿名性から解放されたからです。
 
トップス、ボトムス、ワンピースが到着するとともに、3点の合計金額やスタイリストからのコメントも通知される。利用者はそれぞれのアイテムに評価をつけることができる(にぎわい空間研究所山下研究員の体験報告書より)
 
 SNSを介して実際のコミュニケーションができるようになり、インターネットを通じても人と人が信頼関係を築けるようになっていった、というのがライフスタイルの大きな変化だと思います。

 
固定概念の外にあるモノを選べる
第三の買い物体験“pickss”
 
天沼:スマートフォンの登場で、人々の購買活動も変化しました。ファッションの業界では、人々は移動コストを払って実店舗に行き、商品を探す手間をかけて、買い物をしています。それが実店舗の買い物体験です。
 
 スマートフォンの隆盛で、ZOZOTOWNをはじめ移動コストを払わずに、でも、膨大な情報から商品を検索する手間をかけて商品を購入しています。eコマースです。
 
 我々はpickssで「第三の買い物」を提案しています。移動もせずに、選んでもらうという買い物体験です。自分の固定概念の外にあるモノを選べるというプラスアルファの要素を提案しています。
 
洋服のeコマースにコーディネート提案と試着という新たな付加価値をつけた「pickss」。(提供:株式会社エアークローゼット)
 
 これら3種類のうち、100%どれかになっていくのではないと思います。eコマースも登場から数十年経過して全体の10%程度です。全体の比率の問題なので、それぞれの買い物体験が何%ずつになるかです。私たちは、第三者のプロに洋服を選んでもらうパーソナルスタイリングが一定数を占めると思っています。それが私たちの考えるライフスタイルの一つの変化です。
 

「IT×リアル」にこだわり続け、
様々な保管管理の領域に横展開する

池澤:お二人は先端のIT技術を使いながらライフスタイルの変革を牽引しています。今後のビジネスの展開と可能性はどうなっていくのか? 特に、デジタルネーティブであるミレニアル世代が台頭してくる。価値観そのものが大きく変わっていく。そんな時代に、先進的なビジネスをやられているお二人にとって今後をどうみていくか、その可能性についてディスカッションしていただければと思います。
 
池澤守(株式会社池澤守企画 代表取締役)
 
月森:まず、倉庫会社や物流会社の今後という意味では、労働人口の減少によって、A.I.やロボットは必然の流れになってきます。スマートフォンの新たなサービスを次々と生み出していくことが必要だと思います。大手企業も新たな事業を立ち上げていくことが今後、活発化していくでしょう。
 
 弊社で言えば、「IT×リアル」にとことん、こだわっていきたいです。我々は「IT×倉庫」、airClosetで言えば、「IT×ファッション」。まだまだ広がっていきそうです。我々の保管ビジネスの領域であれば、「IT×アート」もできますし、「IT×ワイン」といった資産をきちんと保管するだけでなく、ITを活用して横展開していく可能性が広がってくるので、そこは果敢にチャレンジしていきたいと思います。
 
TERRADA WINE STORAGE。14:00までに依頼をすれば、当日の17:00~19:00に指定場所へ配送が可能。 該当するエリアは、東京都の千代田区、中央区、江東区、渋谷区、港区、世田谷区、目黒区、品川区、および横浜市中区。(写真提供:寺田倉庫)
 
 

ITを活用し、膨大な情報から
人生に最適なモノの選択する
 
天沼:ITはスピードを速めるところが一番ですよね。先日、シェアリングエコノミーの調査で、世代間のシェアに対する抵抗感の違いを比較していたのですが、いわゆる親世代とミレニアル世代を比較したときに、シェアに対しての抵抗感が3倍も違っていました。若くなるにつれて、抵抗感がなくなっているんですね。

 これってすごいことだと思います。親と子で20〜30年の差です。世代が変わったときに、世代間における何かの意識が3倍変わるということは、これまでおそらくなかったことだと思います。インターネットが成せる技です。
 
 
ジャパンネット銀行によるミレニアル世代のシェア消費についての調査結果。シェアサービスに対してポジティブな意識が明らかになり、ファッションレンタルサービスへの利用意向は最も高いことが判明した
 
 多分、江戸時代は数百年、世代間の意識が変わったことはないと思います。世の中で、文化の変化がすごく早くなっているので、それに事業者側としてサービスを提供していく上で必ずITは必要だと思います。

 私はいつも「シェアリングエコノミー大好きです」とさまざまな場面で発言していますが、その調査で自分が親世代だったのが結構、ショックでした。ミレニアム世代ではありませんでした(笑)。

 もう一つ、私がライフスタイルの中で大切だと思っているのが、「時間価値」をどう高めるかということです。ITを使っていきたい一つの要素です。例えば、顕在化しているのは情報です。情報は増え続けています。一方で、私たちは24時間という限られた時間しか持っていません。
 
airClosetのスタイリストの紹介(提供:株式会社エアークローゼット)

 1日にどれくらいのコンテンツが生まれるか? 世界規模で1日に2,000万以上のコンテンツが生まれるそうです。どの情報が有用で、どの情報が有用でないか、すべて判断することはできないので、ITが活躍します。キュレーションのメディアはまさにそうですし、情報提供という意味ではSNSも同じです。

 私たちはモノにも同じことが言えると思っています。どんどん増え続けるモノに対して、取捨選択する時間がどうしても足りなくなっていきます。人生にとって最適なモノは何か? それを選択できるように科学したいと思います。そこが私たちのチャレンジです。そこにITを使っていきたいです。
 
月森:当然の流れですが、ITはボーダレスに活用されていきます。つい最近、ベトナムに行きました。すごくエネルギッシュです。日本はガラケー(フィーチャーフォン)からスマホに段階を踏んで進化してきました。一方でベトナムや中国には、あれほど活気ある国にいきなりスマホが放り込まれました。これから何が起きるか、とてもワクワクします。
 
 
天沼:きっと家にインターネット環境はないですよね。
 
月森:そうですね。日本で段階を踏んできたことが、一足飛びに変化しているので、何かが起きるかというワクワク感はありますね。
 
天沼:モバイル決済でも中国は相当進んでいます。決済額は600兆円。アメリカの10倍です。大道芸人への投げ銭もモバイル決済という状況です。リアルな投げ銭がないそうです。そういう世界で決済がされていく時、実店舗で今後、何が求められるのかを考えると結構、面白いと思います。
 
 決済を、いつでも、どこでも、誰とでも(C to Cでも)できるようになったとき、空間の利用価値はもっと広がるのではと思っています。そこを考えていくと面白いと思います。
 
月森:なので、あえて新たな事業を創るのを躊躇するのはナンセンスかなと思っています。IT×リアルを突き詰めていくと、何かが起きるのではないかと思っています。ぜひ、今回のようなご縁もいただけたので、みなさんとも何か面白い化学反応が生まれるようであれば面白いと思います。
 

空間のクラウド化が生む
新たな“フォースプレイス”

池澤:お二人のディスカッションで進めさせていただきました。今日のお話からすると、これからの未来はさらなるIT化が進み、リアルのあり方が激変していくのだろうと思います。さて、担当研究員の入谷さん、このお話を伺っていかがでしょうか?
 
入谷:月森様、天沼様、大変興味深いお話ありがとうございました。今の社業における優位性を時代に沿った事業へといかに変化させるか、そして新しいモノとの出会い方を創出する事業の考え方をどのように構築するかなど、リアル空間事業者側がこれから真摯に捉らえるべき、有限な空間を無限化し、新たな産業に変貌させられる仕組みづくりのアイデアがあったかと思います。

 「空間のクラウド化」。この言葉は、“サードプレイス”に「つながり」を付加した “フォースプレイス”(第四の場所)として、これからの消費者が利用する新しい空間設定ができるのではと考えます。

 リアルとバーチャルの融合がもたらす新たな「クラウド空間ビジネス」。我々にぎわい空間研究所は、これからも注視し、次世代の空間産業への変貌ノウハウを蓄積していきます。
 
入谷義彦(にぎわい空間研究所 主席研究員)
 
池澤:クラウド化だけには止まらない、リアルビジネスのIT化の限りない可能性に期待したいと思います。セッション3は以上で終了です。ありがとうございました。

 


【Q & Aセッションでの質疑応答】
 

引っ越しでminikuraに荷物を預け、
必要なモノを選択する賢い活用法

質問者①:寺田倉庫の月森さんにご質問します。ユーザーで月森様が予想しない、うなるような使い方があれば、お聞かせ願える範囲で教えていただけますか?

月森:言える範囲ですが(笑)。一つのエピソードとしては、ある箱に同じ高級バッグがたくさん入っており、住所は六本木でした。ユーザーの方がいくつもバッグをもらい、一つだけ使って、「あなたからもらったものを使っていますよ」と手元に置いて、他のバッグはminikuraと連携している「ヤフオク!」のオークションに出品されるとか、でしょうか。

 あとは、引っ越しに合わせて使われるケースは多いですね。持って行くもの、持っていかないものを考えるのが面倒な方は、一旦、minikuraにすべて預けて、我々が丁寧に写真を撮るので、落ち着いてから「これは捨てよう」「これは手元に置いておこう」と判断するという賢い使い方をされている方もいます。
 
 

再採寸と利用者の感想を蓄積し
独自のサイズ感の基準を構築する

質問者②:天沼様に質問をしたいのですが、お洋服のレンタルだとサイズがかなり課題になると思います。S、M、Lだけだとベストなものを提供できないと思いますが、どのように対策されていますか?

天沼:よい質問を、ありがとうございます。ZOZOTOWNのZOZOスーツの例にもある通り、サイジングはとても重要だと思っています。

 サイズには3種類あると思います。一つは、ZOZOスーツで測るような体のサイズ。二つ目は、洋服はパターンで作られるので、洋服のサイズ。三つ目はシルエットのサイズ感です。この三つがあると思います。体にフィットするという意味では洋服のサイズを重要視しています。
 

 IT業界にいた私がファッションの世界に入って、「ここが違う!」と思ったことの一つがサイズです。洋服のサイズには国際標準がありません。洋服はブランドによってSのサイズはバラバラです。Mも、Lもそうです。そこで弊社では、倉庫に入庫する時に、すべての洋服を測り直しています。

 その上で、お客様に届けて、Sサイズのお客様にあるブランドのMをお届けして、「ちょうどよかった」という反応があれば、そのブランドのSはM寄りであることが分かります。

 そのデータを蓄積していくことで、各ブランドのS、M、Lの分布が分かります。お客様一人ひとりで言えば、どのようなサイズ感のものを好むのかが分かります。基本的にはそういった反応を集めて、データで判断しています。

 スカートの丈もサイズの一つですが、54cmだと「ちょうどよい」と答えられる方が51cmだと「若干短い」と答え、60cmだと「長い!」と答えられます。その方に何cmのスカートを届けるのか?

 スカートの形もあります。フレアスカートもあれば、タイトスカートもあります。そのあたりはすべてデータをスカートのタイプごとに取っています。タイトで送るのであれば何cmかを定めていきます。その積み重ねで、その方の好みに近づいていきます。そこが科学するところです。
 

スタイリングの表現に工夫を凝らし
ユーザーの体験を高め続けていきたい

質問者③:実際に利用しています。毎回、スタイリストさんがコーディネートのアドバイスをくれます。その画像が添付されているともっとイメージが湧くと思います。自分では選ばない洋服が来ることで、着る洋服の幅が広がっていると感じています。

天沼:貴重なご意見ありがとうございます。今のようなお客様の声が一番大切です。定期的にお客様の座談会を開催しており、私も参加しています。そういう中で、「自分の手持ちの服ではどんな服が合うのか?」という声は上がっています。
 

 airClosetは一人の人が一生かけても買えない洋服が入ったクローゼットの中から新しい洋服と出会ってもらいたいというコンセプトです。買い物アプリのpickssは買い物に行きたいけど時間がない時に使っていただくサービスです。

 そのpickssでは「マイクローゼット機能」を導入しています。手持ちの洋服の写真を撮ってもらい、例えば「先日買ったこのスカートに合うトップスが欲しい」という場合は、それを送ってもらえる機能は試験的に導入しました。とても反響がよいです。airClosetにも導入しようと、今、準備をしています。

 確かにスタイリングのアドバイスを言葉だけで説明すると分からないときがあります。そこで、用語をクリックすると写真が出てくるように工夫もしています。少しずつお客様の声でUXを高める取り組みをしているのです。

 先週(2018年10月15日)から、アクセサリーのレンタルも始めました。これもお客様の声から企画しました。スタイリストに「大ぶりのアクセサリーをつけてください」とアドバイスされても「どれくらいが『大ぶり』なのか?」が分かりません。それであれば、一緒に届けてしまおうというコンセプトでアクセサリーのレンタルも始めました。コーディネートも今後、言葉だけでない伝え方を導入していきたいと思います。(了)
 

 
 

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