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にぎわい空間創出FORUM2019<br />
研究セッション テーマ③<br />
「スマホで手続き完了!賃貸住宅革命『OYO LIFE』」
Event Report

にぎわい空間創出FORUM2019
研究セッション テーマ③
「スマホで手続き完了!賃貸住宅革命『OYO LIFE』」


2020.03.12facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
テーマ解説
福美 かおり
にぎわい空間研究所 主任研究員
 
 
多大なお金と労力が必要な
賃貸住宅に革命を起こすOYO LIFE

 本日、ご来場の方々にも賃貸住宅を借りた経験のある方は多くいると思います。新たな生活環境を整えるには、物件探しから始まり、内見、契約手続き、初期費用や家賃の支払い、家具家電の購入、電気、ガス、水道の開設手続き、そして引っ越しなど、やることがたくさんあります。
 私個人としても家探しのときはとても苦労しました。引っ越しはやはり気軽には決められるものではありませんし、多大な労力とお金が必要になり大変なものです。
 

 そんな私も感じた賃貸住宅の様々な障壁を見事に解消し、革新的な賃貸サービスを構築したのが「OYO LIFE」です。なんと、スマホひとつで部屋が借りられてしまうのです。
 OYO LIFEのサービスの背景には、高度なテクノロジーの活用があります。
 では、不動産業界の常識を覆すOYO LIFEの新たなビジネスモデルとは、いったいどのようなものなのでしょうか。ビジネスの構造や着眼点がとても気になります。


講演者
種 良典氏
OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社
東京ゼネラルマネージャー

 
 
テックの力で急成長する
インド発のホテル運営会社OYO
 
 OYO LIFEの種良典です。本日はよろしくお願いします。
 OYO LIFEの紹介に入る前に、みなさんにお伺いしたいことがあります。OYO LIFE、OYO、聞いたことのある方はどれくらいいますか? 半分ぐらいですかね。OYO LIFEに住んでいる方はいますか? ゼロですね。ありがとうございます。
 
マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京、NY)にてコンサルティングに従事した後、ベインキャピタル(東京)にて、バイアウト投資と投資先の経営などに関与。令和元(2019)年6月に現職に就任し、スマホひとつで手続きを一気通貫するOYO LIFEで1都3県の事業統括をするとともに事業開発の責任者を務める。賃貸不動産の革新サービスを普及する先導役である。
 
 今日はOYO LIFEの紹介と、不動産テックの会社であるOYOが不動産の領域でどのようなことをしているかを紹介します。
 私は東京のゼネラルマネージャーをしており、1都3県を統括するのが私の仕事です。前職では、コンサルタント、大江戸温泉への投資、自然エネルギーへの投資なども行なってきました。令和元(2019)年6月にOYO LIFEに参画しました。
 OYO LIFE に入る直前、シリコンバレーに留学をしており、テック企業であるGoogleのエリック・シュミットやLinkedinのリード・オフマンといった方々から指導してもらい、いろいろな勉強をしてきました。そんな縁もあり、テック企業であるOYOに入社しました。
 
 OYO LIFEに入る前に、OYOがどんな会社かを紹介します。設立は2013年です。ホテルのフランチャイズビジネスを世界で展開している会社です。OYOのひとつの特徴はとにかく成長のスピードが早いこと。現時点で全世界で110万室のホテルをフランチャイズで展開しています。
 ここ2、3年、急速に成長していますが、その成長もテクノロジーがあってこそです。普通のホテルビジネスだと、このスピードでは成長できません。OYOはフランチャイズを採用し、さらにテック企業であるゆえに非常に早く成長しています。
 ファウンダー(創業者)はリテッシュ・アガーウォールですが、彼は先日、誕生日を迎えて26歳になりました。インド出身ですが、全世界80カ国の2万人の従業員を率いています。これまでに1,000億円以上の資金調達をしています。
 OYOは80カ国で2万3,000のホテルを展開しています。客室数110万室は、世界最大のホテルチェーン、マリオットに次ぐ規模です。アメリカ、ヨーロッパ、アジアに進出しています。
 

スマホで予約が完了する
世界初の賃貸住宅サービスを開発
 
 
 日本ではふたつの事業を展開しています。賃貸住宅サービスの「OYO LIFE」とホテルフランチャイズの「OYO Hotels」です。なぜ、OYOは新規事業であるOYO LIFEを日本でわざわざやっているのか、とよく聞かれます。  
 日本の住宅市場の半分、つまり住居の半分は賃貸住宅です。東京圏には人口が4,000万人いるので、東京の賃貸住宅市場は世界最大です。OYOが賃貸住宅サービスを日本で始めたのは、日本には世界最大の賃貸市場があり、今までOYOが培ってきたテクノロジーやホスピタリティのナレッジ、不動産領域のナレッジをレバレッジできるからです。今年の3月にOYO LIFEを開始しました。サービスを開始してから270日ほどの若いベンチャー企業です。
 OYO LIFEのプロダクトは、ホテルの部屋を予約するように賃貸の部屋を貸してしまおうというものです。スマホで予約が完了する世界初の賃貸住宅サービスです。
 
 
 みなさんも引っ越しをされたとき、対面で重要事項説明を受けたことがあると思います。そういったこともすべて省いて、全部オンラインで書面の締結まで進めようというプロダクトを作りました。もちろん法律の範囲で行なっており、そのうえで、敷金・礼金・仲介料もすべて省いて、とにかくお客様を徹底的に「甘やかそう」というプロダクトを作っています。
 
 
供給過多の“超空室時代”に
ネットとテックでお客様を付ける
 
 
 なぜ、こういうプロダクトを作っているのか? その理由は日本の賃貸住宅市場にあります。
 まず、日本の賃貸不動産市場はとてつもなく巨大です。ホテル市場よりもはるかに巨大です。OYOとしては賃貸住宅市場にテックを使って、進出していこうというのが背景としてあります。
 もうひとつは、賃貸住宅市場が供給過剰になっていることにあります。賃貸物件の大家さんと話していると、「超空室時代」という表現をします。全国的にみると空室率は2割に上ると言われています。その状況になぜOYOが進出するのか? OYO LIFEはインターネットの力を使って、なかなかお客様が付かないような部屋にもお客様を付けてみせるというサービスです。それが、OYO LIFEのテックであり、存在意義だと思っています。
 不動産テック協会の赤木さんの講演で「情報を隠匿する」という話がありました。不動産の業界は歴史的に貸主が強かったので、いろいろな情報を開示してきませんでした。価格もAさんには50,000 円でお貸しして、Bさんには60,000円でお貸しするということが当たり前に行われている世界です。
 しかし、世の中が供給過剰になってくると、お客様側の力が強くなって、OYO LIFEのように“お客様を甘やかすサービス”を提供していかないと、空室を埋められないという課題をオーナー様は持っています。
 
 
 OYO LIFEはインターネットの力を使って、価格も開示しオープンにして、お客様に便利なサービスを提供していこうという思いでやっています。
 3点目は分散化した市場にあります。不動産業界はテックの導入が遅れているとよく言われますが、その背景として、不動産住宅のオーナーは個人の方が85%を占めます。こういった方々はテクノロジーへの投資がなかなかできないという産業の背景があります。だからこそ、弊社がテックへの投資を行うことで、テック化が進まない不動産市場でOYO LIFEを展開していきたいと考えているのです。
 OYO LIFEでは、テックのエンジニアが日本とインドにいるのですが、70名ほどのテックエンジニアを抱えています。全世界で従業員が約20,000人ですが、そのうちの2,100人がテックのエンジニアです。グローバルでも、その水準で展開しており、テック企業であると自負しています。
 

敷金礼金なし・水光熱費込み
手続きはオンラインで完結
 
 
 不動産賃貸のための「煩雑な手続き」も大きな障壁です。高額な初期費用や審査通過が不可欠です。外国人の方は部屋を借りたくても、借りられないという話はよく聞きます。海外から友達が引っ越してきて、アテンドすることがあるのですが、「礼金って何ですか」とよく聞かれます。僕も礼金が何かをうまく説明できません。日本特有の費用です。歴史的に貸主が強いという背景があって、今の不動産事業が成り立っているのです。
 従来の賃貸不動産の契約までの手続きと比べると、OYO LIFEはすべてオンラインで物件を探せます。内見もしません(※1)。OYO LIFEはスマホやパソコンで完結しますので、基本的には内見をしないで賃貸の申し込みをしてもらうかたちです。支払いに関しては、従来の敷金礼金は基本的には取りません。
 私自身も経験がありますが、電気・ガス・水道を通すには結構手間がかかります。僕が一番苦労するのは、カーテンの取り付けです。引っ越しをするとカーテンが付いていません。前の家と窓の数や幅、高さが異なります。何が起きるかというと、カーテンなしの生活が1年続くか、カーテンが寸足らずになります。
 そういった不便も取り除いていこう、ということで家具家電付きの物件を豊富に用意しています。あとは電気・ガス・水道・Wi-Fiも完備しています。
 退去については、立会いもしていますが(※2)、基本的にはスマホ上で退去日を決めてもらえれば退去できます。家具付きのマンションであれば、引っ越しの作業もかなり減らせます。こういった部分がOYO LIFEの特徴です。
 
※1:OYO LIFEでは本フォーラム後の令和元(2019)年12月6日から事前の内見サービスを開始。サイト上で内見日時の予約が可能となった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000041664.html
※2:フォーラム後、立会いなしでスマートフォンで室内の写真を撮って送るのみの「セルフ退去」が基本となった。
 
表示家賃と実家賃が異なる
不動産業界の常識に挑む
 
 
 お客様目線からすると何が変わるのでしょうか? どういうメリットがあるのでしょうか?
 まず、すごくスムーズな入居が実現します。敷金・礼金・鍵交換代・審査など賃貸にまつわる「摩擦」を徹底的に撤廃して、“お客様を甘やかしたプロダクト”で、スムーズな入居が実現します。
 5年後、10年後にみなさんが引っ越しをするときには、「わざわざなぜ不動産仲介会社に行っているの? スマホひとつで借りちゃえばいいじゃん。時間がもったいないじゃん」と言ってもらえるような新しい賃貸住宅スタイルを作りたいと思っています。
 2点目はリーズナブルな価格です。入居する方には我々がサブリースするかたちでお貸ししているので、SUUMOなど賃貸不動産のポータルサイトでの表示よりも少し高い設定になっています。なぜ高いかというと、家具や初期費用、電気・ガス・水道の開設、Wi-Fiの接続などを含めたオールインの価格だからです。
 不動産業界では価格が不透明であることが常識です。家賃が5万円と表示されていても、賃料以外に共益費が1万円かかれば実家賃は6万円になります。さらには、敷金・礼金・仲介料などの初期費用、鍵交換代、清掃費、そして電気・ガス・水道料金は別払いです。こういった費用がどんどん積み上がり、もともとの表示の5万円とはまったく異なる金額を請求されてしまいます。
 
 
 そういった料金を含めた価格より、OYO LIFEの価格は安い設定にしてあります。OYO LIFEを使うことで引越しが楽になることに加えて、すごく経済的なオプションになります。数カ月ほど住んで引越ししようとすると、日本ではとても費用がかさみます。そこを取り除いていくのがOYO LIFEのサービスです。
 
 
 テック企業なので、OYO LIFEではアプリを開発しています。スマホでも、パソコンでも予約ができます。物件を検索して、入居日、退去日を決めて、個人情報を入力すれば予約が完了します。基本的にはホテルをオンラインで予約するようなかたちです。
 

入居者への新たな体験の提供が
“OYO PASSPORT”の狙い
 
 OYO LIFEでは不動産テック企業として、これまで不動産会社ができなかったことを、どんどんテクノロジーの力を使って売っていこうとしています。その代表例がOYO PASSPORTというサービスです。  
 
 
 OYO PASSPORTは、現在、100社ほどと提携をしています。OYO LIFEの部屋に住むと単に部屋に家具が付いていたり、敷金礼金が無料になったりするだけでなく、それ以外にも部屋とはまったく関係のないサービスが色々と利用できるようになる。それがOYO PASSPORTの狙いです。
 様々な事業者と提携していますが、事業者様から手数料は取っていません。提携している事業者には、入居者様が無料のサービスを1カ月、2カ月利用できるようお願いしています。OYO LIFEの部屋に住むと、こんな面白いサービスが受けられる、新しい体験ができる、普通の賃貸住宅ではできない体験ができるようにするのが我々の狙いであり、付加価値につながると思っています。
 
 
 不動産テックという文脈でお話をします。今、ソフトウェアがいろいろな業界を飲み込んでいます。分かりやすい例で言えば、新聞です。昔は輪転機を回して刷っていましたが、今はオンラインのデジタルメディアに変わりました。ソフトウェアによって、産業そのものが変わっていきます。ソフトウェアによって、ハードウェアが駆逐されている、とテックの業界ではよく言われています。
 不動産業界におけるハードウェアとは何か? 家そのものです。家の間取り、立地、構造、設備などです。そこに値するソフトウェアとは何か? それはハードウェアでは提供できないサービスです。OYO PASSPORTであり、敷金礼金が不要なシームレスの予約の方法です。
 
 
 今まではハードとしてだけの賃貸住宅を売ってきた不動産業にソフトウェアの側面をどんどんプラスして、新しい付加価値を提供していきたいと思っています。
 

家にいる時間をキャプチャーし
暮らしにまつわるビジネスを創出
 
 そもそもなぜOYO LIFEは不動産ビジネスに投資しているのでしょうか。不動産テックが新しい付加価値をどんどん提供できると私たちが思っているから、というのがその答えです。
 賃貸住宅の場合、普通の方は収入の3分の1を家賃に充てるのが日本では一般的です。相当な金額を生涯払うことになります。
 これはテックの業界ではLTV(Life Time Value)と呼ばれ、ひとりのお客様にどれだけのLTVがあるかがよく議論されます。その観点で見ると、賃貸住宅はものすごく高額なので、LTVはとてつもない金額になります。例えば、ゲームに登録することで生じるLTVは高くても年間数千円から1万円です。携帯電話だと年間数万円から数十万円です。
 賃貸住宅の場合、OYO LIFEというプラットフォームに一度住んでもらい、「OYO LIFEじゃなきゃ嫌だ、他の賃貸住宅には住めない。家具も持っていないので家具付きマンションでなきゃ住めない」となるとOYO LIFEの中で引っ越すことになります。LTVで言うと年間10万円とか100万円という規模ではなく、非常に大きな規模になってきます。テックの世界ではLTVという考え方で不動産をみたとき非常にうま味があるビジネスになってくると思っています。
 
   
 もうひとつは「シェアタイム」の考え方をしたとき、人は8時間から10時間を自宅で過ごします。今の不動産会社は、この時間をマネタイズできていません。例えば、みなさんが家に帰られて、ネットショッピングをしたとします。消費行動は家の中で起きています。家の中で起きているのですが、お金はAmazonに落ちます。不動産会社が提供している住居は、家の中で起きていることまではキャプチャーできません。そこを私たちは面白いと見ているので、家にいる時間をうまくキャプチャーして、ビジネスを作っていきたいと考えています。その文脈で、OYO PASSOPORTの話に戻ります。  
 例えば、OYO LIFEに住んで毎月5万円の家賃を払っているとします。OYO LIFEのプラットフォームであるOYO PASSOPORTの中には、クリーニングのサービスがあります。どうせ家賃を払っているのだから、クリーニングもOYO LIFEにお願いしようとなる。家具のレンタル、家事の代行も、インターネットサービスプロバイダーもOYO LIFEにお願いしよう、ということが当然起こりえます。
 

データ分析を基に物件を開発し
全国にOYO LIFE を広げていく
 
 私はOYO LIFEはインフラだと思っています。衣食住における住のインフラを提供する会社にしていきたいと考えています。OYO LIFEの家に住むというよりは、OYO LIFEという生態系(プラットフォーム)の中に住んでいただき、その中でいろんな便利なサービスを提供できるだろうと考えています。  
 お客様へのメリットは、スマホを利用できるので便利ということだけでなく、実はスケールメリットがあります。マンションに住んでいて1人で家事代行サービスを頼むと、出張費などで結構高くなります。マンション1棟全員で家事代行サービスを申し込んだら1世帯あたりは安く済みます。OYO LIFEのようなプラットフォームが大きくなることで、スケールメリットが生まれ、究極的には便利なサービスを安くお客様に提供できるようにしたいと考えています。  
 
 
 最後に、今後の展開を紹介したいと思います。現在OYO LIFEでは、物件の稼働率、空室率、検索率などの分析を日々行なっています。黄色いバブルはOYO LIFEでの検索の規模を表示しています。人気の部屋、人々が求める駅を明らかにすることで、そういった部屋の新規獲得を我々の戦略に落とし込んでいます。令和元(2019)年10月には大阪、11月には名古屋に進出しており、今後、別の都市にも展開し、全国的にOYO LIFEを広げていきたいと考えています(※3)。
 
※3:令和2(2020)年1月より、大阪エリアと名古屋エリアの新規予約を停止中。
 

講演を終えて
 
 
福美研究員:お話を聞いて、OYO LIFEとOYO PASSPORTを活用すれば、衣食住の「住」がすべて網羅されるのではと期待感が高まりました。研究していたときに感じていたことですが、現代のスマホ社会という流れを見極めることが、これからのビジネスの鍵になるのではないかと、今日のお話をお聞きして強く感じました。
  日常的に欠かせないスマホ、そしてスマホを使う人の心理や行動を読み解いた新たなビジネスモデルは多くの人々のライフスタイルを劇的に変化させ、自由な暮らし方、働き方が増えていくはずだと確信しました。(了)
 

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。


 
 

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