2000年代に入って隆盛を極め始めたAmazon、Uber、Airbnb、Netflixなどのデジタルプラットフォーマーは、情報通信技術(ICT)を駆使した革新的なサービスとビジネスモデルで人々のライフスタイルを一変させた。こういったデジタルソリューションによる変革は「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)」と呼ばれている(※1)。
DXは商品の付加価値を高めたり、業務を効率化したりする “単なるデジタル化”ではない。ICTの導入で企業のビジネスモデルを一変させ、人々のライフスタイルにも多大な変化をもたらすものなのである。DXは今後、加速度的に進行し、あらゆる産業で変革が起きていく(※2)。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の全体像
DXのムーブメントを象徴する動きが“産業のテック化”である。テック化は、金融のテック化「フィンテック」、小売のテック化「リテールテック」、農業のテック化「アグリテック」など、あらゆる領域で始まっている。その先には、事業のあり方や生活スタイルを劇的に変えてしまう新しい未来が待っているのである。
当事者だけの相対取引や紙を使った手続きなど、アナログな部分が多い巨大な不動産市場においても、DXのムーブメントが現れ始めている。不動産業界では今、ICTを活用した「不動産テック」によって、既存の商習慣や事業モデルに囚われない革新的なサービスが生まれ始めているのである。
例えば、令和元(2019)年3月に登場したばかりの革新的賃貸住宅サービス「OYO LIFE(オヨライフ)」である。その特徴は、スマートフォンひとつで、物件探し、部屋の予約、契約、支払い、そして退去までが完結することだ。敷金、礼金、保証金、仲介手数料などの初期費用は不要。そして、部屋には家具や家電(※3)、Wi-Fi設備まで完備し、毎月定額の共益費にはWi-Fiの費用も含まれている。まるでホテルを予約するように、賃貸住宅を1カ月単位で気軽に借りられる画期的なサービスが実現したのである。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN KK
従来、賃貸住宅の契約には、不動産会社に赴いて書面での契約を行う必要があり、電気やガス、水道の開始など煩雑な手続きが必要だった。OYO LIFEは、ICTを活用した賃貸住宅の新たなモデルを構築することで、不動産会社に行かずに最速30分での契約手続きを可能とし、最短で翌日には手ぶらで入居できる画期的な賃貸住宅サービスを実現したのである。徹底してユーザー負担の軽減に努めるOYO LIFEは日本の不動産賃貸のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
OYO LIFEに見られるような不動産テックの先端事例には、従来のサービスの利便性を高めるだけでなく、私たちのライフスタイルを一変させ、ビジネスのあり方を根底から覆す変革、つまりDXの現象が起きていることを認識させてくれる。18世紀の産業革命、1990年代の情報通信革命に続く“第3の革命”とも言われるDX。私たちは今、ビジネスのあり方をテック化、そしてDXの視点から捉え直す必要に迫られているのである。
研究レポートでは、不動産テックにおいて企業のビジネスモデルや人々のライフスタイルを一変させる可能性をはらんだ先端事例を紹介するとともに、国内外の不動産テック事情に精通した一般社団法人不動産テック協会代表理事の赤木正幸氏へのインタビューを掲載する。
※1:Digital Transformationの略称は“Trans”が“X”で示されることからDXと表示される。