「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

「ファーストキャビン」(宿泊特化型コンパクトホテル)
総 説
Report_Case13

「ファーストキャビン」(宿泊特化型コンパクトホテル)

デッドスペースを宝の山に変える“未活用空間ビジネス”
〜老朽化ビルに新たな価値を吹き込む宿泊業態の提案〜

2017.11.17facebook

 社会が成熟期を迎え、多くの既存市場が伸び悩む一方で、従来の発想では事業活用ができなかった“未活用空間”に独創的なアイデアを取り入れることで、新たな事業収益を生み出すことに成功した“未活用空間ビジネス”が次々と登場し、急成長を続けている。
 こうした“未活用空間ビジネス”は、①社会問題化している老朽化した中規模ビルを、独創的なホテル業態の導入によって再生を図るコンパクトホテル「ファーストキャビン」、②安定収益を生むコインパーキング事業を続けながら、その“空中”にテナント店舗を積み増すことで賃貸収益をも稼ぎ出す空中店舗「フィル・パーク」、③従来は事業対象にはならなかった店舗の軒先や駐車場の空き時間に着目して、インターネットでマッチングする軒先レンタルサービス「軒先ビジネス」など、多彩な分野での展開が進んでいる。
 以上の動向を踏まえ、今回は、中規模ビルの再生に成功した「ファーストキャビン」の事例研究を行った。
 宿泊特化型キャビンスタイルホテル「ファーストキャビン」は旅館業法の「簡易宿所」カテゴリーの法規(※)に基づいた宿泊業態であり、規格化された独自開発の客室「キャビン」の配置による“コンパクト&ラグジュアリーな宿泊空間”の提供を特徴とする簡易宿泊施設である。社会課題である老朽化した中規模オフィスビルなどの空きビルを低投資で簡易宿泊施設に転用し高収益ビルに蘇らせることができる画期的なビジネスモデルだ。
 そのビジネス構築はマーケティング的な分析に基づいている。ビジネスホテルとカプセルホテルの価格帯の間という「空白の価格帯」に適合する「コンパクト&ラグジュアリー」な宿泊施設として考案、事業化されたのである。
 ファーストキャビンの特徴は、簡易宿泊施設の代表業態であるカプセルホテルとは異なり、①内部で人が立てる天井高のキャビンの設計・開発、②旅客機をイメージしたブランディングとスタイリッシュなデザイン、③高級ホテルなみの高い接客レベル、④大浴場やラウンジなど充実した共用施設、などが挙げられる。通常のカプセルホテルは当日利用がほとんどだが、ファーストキャビンは予約による利用が8割以上に上ることからも、出張や観光の宿泊施設として認知、活用されていることが分かる。
 一方、ファーストキャビンを活用するビルオーナーにとってのメリットは、老朽化ビルを建て替えるリスクを取ることなく、低投資で改装して高利回りを生むビルに再生できることだ。事業採算の目安も明確だ。基本的な事業モデルの目安は100キャビンあたり①利用面積300坪、②投資3億、③工事期間3カ月、④利回り30%といった内容である。ファーストキャビンが築き上げてきた、高い話題性と低投資・高品質・高満足に貫かれた強固なブランド力がそれを可能にしている。事業形態もフランチャイズや運営受託など、多様な選択肢が用意されている。バブル期に大量に生まれた、老朽化して高い空室率に悩む中規模ビルのオーナーにとっては、まさに救世主のような存在だ。
 ファーストキャビンの事業主体は(株)ファーストキャビンである。商業施設やホテルなど幅広い分野の建築設計を手がける(株)プランテック総合計画事務所の子会社だ。ファーストキャビン事業は、その独創的な発想とマーケティング的な事業立案もさることながら、プランテック社が培ってきた建築的ソリューションによるところが大きい。宿泊用途向けとしては決して条件が有利ではない老朽化したオフィスビルなどの再生案件を徹底的に検証し、建築法規の豊富な知見を駆使しながら改築を行い、事業を成立させていくのである。
 平成29(2017)年10月時点で、ファーストキャビンは日本全国に16施設。同年度内には18施設まで伸びる予定だ。また、JR西日本との合弁会社も設立するなど他社との連携で事業拡大を加速させながら、平成34(2022)年には100店舗(海外含め)まで広げる見込みで事業を拡大していく。
 多くの業界と企業が成熟期や衰退期を迎えた今、リアル空間産業がその賑わいを取り戻すためには、あらゆる空間リソースの空きや無駄を事業活用することで収益の最大化を図ることが必要不可欠だと言える。にぎわい空間研究所では、そうした問題意識のもとに、新しいコンテンツやビジネスモデル、IT技術などを取り入れることで、デッドスペースを宝の山に変えることができる“未活用空間ビジネス”の動向について、今後とも注目していきたいと考えている。
※旅館業法の「簡易宿所」カテゴリーの法規
旅館業法では、①ホテル営業、②旅館営業、③簡易宿所営業、④下宿営業という4種類の営業形態にもとづき、それぞれに独自の規定が定められている。
簡易宿所(かんいしゅくしょ)は、「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」を行う施設をいう。ホテルや旅館営業と比べ、客室面積や部屋数、窓、浴室などの構造設備基準が大幅に緩和された簡易宿泊施設である。代表的な簡易宿所業態はカプセルホテルであるが、合宿所や民宿も該当することが多い。近年台頭してきた民泊もこれに該当する。

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