「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

「アグリビジネス創出フェア2015」(展示会)/農林水産省
総 説
Report_Case03

「アグリビジネス創出フェア2015」(展示会)/農林水産省

学術的な研究成果をビジネスにつなげる
〜マッチングの新手法、コーディネート型展示会の可能性〜

2016.05.31facebook

 ビジネスの世界には「死の谷」という表現がある。ベンチャー企業が製品開発を進めるプロセスにおいて、実用化の目処が立った研究開発を事業化する際に立ちはだかる障壁のことである。
 障壁の多くは資金難である。とりわけ、日本における死の谷は深い。米国にはベンチャー企業を支援する文化があり、有望な研究やビジネスプランに投資するベンチャーキャピタル、エンジェル投資家などが数多く存在する。だが、日本ではそういった投資マインドは必ずしも高いとは言えず、それゆえ多くのベンチャー企業は事業化ができずに死の谷をさまようのである。
 農林水産・食品分野において、この死の谷に懸け橋をかけようとしているのが、農林水産省が主催する展示会「アグリビジネス創出フェア」である。同省の管轄にある研究所、そして全国の大学、関連の会社が出展し、取り組んでいる研究の成果を発表する。新規事業を模索している企業の担当者が数多く訪れ、事業化に向けたマッチングが生まれているのだ。私は、企画・制作プロデューサーとして本展示会に参加をさせていただいた。
 この展示会が他のビジネスフェアと大きく異なるのは、「コーディネーター」の存在である。専門知識を持ったコーディネーターたちは、出展者の研究内容などを熟知したうえで、マッチングを希望する企業や研究室を有機的につないでいくのである。会期は3日間だが、コーディネーターの多くは年間を通じて出展者と連絡を続け、最適なマッチングを模索している。
 インターネットを活用すれば、研究成果を全世界に発信できるし、クラウドファンディングで投資を呼びかけることができる。しかし、研究が事業化に至るまでには長い時間と膨大な資金を要する。その深くて、暗い死の谷を渡りきるのは、切実に求め合う者同士の出会いが不可欠であり、その適切な出会いを見極められるのは、やはり両者を熟知した「人」なのである。
 プレゼンテーションの場を提供する従来の展示会の機能に加えて、有機的にプロジェクトと企業、人と人とをつないでいくアグリビジネス創出フェア。その独自のマッチング手法は、リアルな場で行われる展示会というメディアが、その存在価値を高める上で有効な方法があることを示唆していると言えるだろう。
学術的な研究成果をビジネスにつなげる
出典:出川通=田辺孝二「ベンチャー企業における「日本型死の谷」の考察(ベンチャー経営と政策)」
『年次学術大会講演要旨集』21巻1145頁(研究・技術計画学会, 2006)

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
会員登録されている方は、本レポートをPDFファイルでダウンロード出来ます

TOPへ