「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

研究レポート

「軒先ビジネス/軒先パーキング」(スペースシェアサービス)

スキマハンターが切り拓いた未活用空間ビジネス 〜“スキマ”の活用が事業を創出し、パーキングを変える〜 Vol.2

2017.05.10 facebook
編著:にぎわい空間研究所編集委員会

国内初の駐車場シェアリング
「軒先パーキング」を事業化
 
 前述した通り、平成23(2011)年から軒先では大手チェーンへの営業を強化し、登録物件の獲得を効率的に行う方針に舵を切ったが、それには理由があった。当時、軒先では新たなサービス「軒先パーキング」を準備しており、そちらに人的リソースを注力する体制を整えようとしていたのである。
 
 軒先では創業間もない時期から空き駐車場の登録があった。だが、キッチンカーなどを駐車する区画は別として、一般的な駐車場は駐車にしか使えない。西浦氏は駐車場のシェアリングについていつか深堀りをしてみたいと考えていた。
 
 平成24(2012)年2月、国税庁は「マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について」という文書を発表する(※)。この文書によって分譲マンションで区分所有者以外に駐車場を貸し出した場合、駐車場全体ではなく、貸し出した区画の収益のみが課税対象になることが明確になった。この解釈によって、分譲マンションの空き駐車場を有料でシェアリングできる状況が整ったのである。
 
 時を同じくして、軒先に一本の電話があった。ドイツの自動車メーカー、BMWの子会社であるBMWアイベンチャーズ(BMW i Ventures)だ。同社は駐車場のシェアリングを事業化する世界のベンチャー企業に投資していた。日本市場をリサーチしたところ、不動産のシェアリングを事業として展開していたのは、軒先しかなかった。
 
 同社から「海外では駐車場シェアサービスが盛んで、自分たちも駐車場シェアサービスを運営しているイギリスのベンチャーに投資している。日本でもニーズはあると思うが、軒先は駐車場シェアの事業はやらないのか?」というコメントがあり、西浦氏は以前から温めてきた「軒先パーキング」の事業化に乗り出すことを決める。サービスのスタートは平成24(2012)10月17日23時42分。国内初の駐車場のシェアリングプラットフォームが誕生した瞬間である。


※「マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について」
http://www.nta.go.jp/law/zeiho-kaishaku/bunshokaito/hojin/120117/besshi.htm

 
集客施設と観光地を中心に
チラシと営業で駐車場を開拓
 
 軒先パーキングの利用方法はいたって簡単だ。駐車場を利用したい人は軒先パーキングのサイトで会員登録をして、サイト上の地図で目的地の近くにある駐車場を探す。借りたい日時に空いていれば、予約を申し込む。支払いはクレジットカード決済か携帯電話のキャリア決済。貸主から利用OKが来たら予約が確定する。車のナンバーを入力すれば、パーキングチケットが発行されるので、あとは当日に現地で利用するだけである。なお、会員登録には駐車する車両が「対人対物賠償責任保険」に加入していることが前提となる。
 
 基本的に料金は1日(24時間)の設定。周辺のコインパーキングの12時間料金よりも安く設定されている場合が多く、また時間内であれば必ず空いていて、何度でも出し入れできる安心感がある。
 
 軒先パーキングは駐車場を提供する貸主にもメリットは大きい。かつては自家用車を保有していたが、高齢になり運転を止めて自動車を手放し、駐車場が空になるケースが多い。だが、遠方に住む家族が来る時は駐車場を空けておきたい。軒先パーキングであれば、貸したい日だけ貸すことができるし、コインパーキングのような設備投資や集金の手間も不要なのである。それでも、サービス開始当初は物件探しに苦労したと西浦氏は振り返る。


軒先パーキングのウェブサイトでは駐車スペースを貸しやすいようにポイントが分かりやすく整理されている。



 
 まず攻めたのは開業間もない東京スカイツリー周辺だった。当時、公式の駐車場の入り口には入庫する自動車が列をなしていた。営業の手法はポスティングだ。スカイツリーから徒歩15分、20分の範囲に通い、軒先パーキングのサービスを告知するチラシを投函する。興味を抱いて連絡をしてくれた個人や会社に赴き、登録をしてもらうという方法だ。
 
 「素人ながらにも駐車場の少ない場所、タイミングは分かっていました。特に大型のイベントが行われるアリーナの近辺です。イベントがある時は圧倒的に駐車場が不足する。北海道の札幌ドームから福岡のヤフオクドームまで、全国で営業を展開しました」
 
 その後は、鎌倉など駐車場不足が明らかな観光地にも注目し、登録の営業を展開してきた。


 

海水浴場など観光地が多い逗子市(神奈川県)で住居前の駐車スペースを軒先パーキングに登録している物件。
 
Win-winの関係で提携を広げ、
駐車場の登録件数を拡大
 
 軒先パーキングが登録駐車場と会員を増やしてきた大きな理由は幅広い分野の企業との業務提携にもある。これらの提携は軒先の事業拡大に貢献しているが、一方で、提携先にも大きなメリットがあるのだ。

 
■ 軒先の提携先と提携メリットの内容

 
 
■ 軒先×東急住宅リース
管理する不動産物件で空いている駐車場や空間を軒先のサービスを通じて活用する仕組みを整え、
オーナーの満足度を高める東急住宅リース。https://www.atpress.ne.jp/news/106652

 
■ 軒先×西武信用金庫
西武信用金庫では、強みである地域との密接な関係と軒先のシステムを組み合わせることで、
顧客満足度を上げる仕組みを構築した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000020384.html



 興味深いのは、駐車場管理やカーナビ、住宅不動産関連といった直接的に駐車場利用と関わる分野だけでなく、金融機関やインフラ会社が軒先パーキングとの連携に乗り出していることだ。西浦氏はその理由をこう語る。
 
 「今、シェアリング・エコノミーに関心を抱く企業が増えています。この分野で新規事業を立ち上げたいが、ノウハウもなければ、人的リソースも割けない。そこで、弊社との提携を通じてシェアリングサービスを開始し、裏側では軒先のシステムが支援するというかたちが増えています。弊社としても地域密着型の会社と協業ができれば、それだけ新たな物件の開発が可能になります」
 
 最近は大手商業施設からの問い合わせも多いという。テナントを入れ替えるのではなく、空き店舗区画の一時使用というシェアリングの仕組みを活用したポップアップストアを誘致することで、新たな事業者を呼び込み、施設の雰囲気をリフレッシュできないかを検討しているという。モノが売れない時代、商業施設の救世主としても軒先は注目されているのだ。

 
軒先パーキングのロケーション地図。集客施設、観光地での地道な営業、
そして企業との連携によって、登録駐車場は全国に広がっている。

 
軒先との連携で地域の協力を得て
自治体イベントの駐車場問題を解決
 
 最近では、地方の自治体やNPOからの依頼も増えている。各地で行われる花火大会や桜まつりなどのイベントは数日から数週間の短期間に数万人単位の観光客が訪れる。だが、公共の駐車場は限りがあるとともに、地方なのでコインパーキングも整備されていない。極度の駐車場不足に悩む自治体が注目したのが軒先パーキングだった。
 
 自治体の広報物を通じて、駐車場の提供者を募り、軒先パーキングへの登録を呼びかける。そして、イベントの情報を発信する観光協会のウェブサイトなどで軒先パーキングのサービスを紹介しながら、登録された駐車場の利用を促すのである。これまでに、福島県喜多方市(日中線記念自転車歩行者道しだれ桜)、長崎県島原市(島原温泉ガマダス花火大会)、NPO 法人モエレ沼芸術花火 (モエレ沼芸術花火2017)などの実績がある。
長崎県島原市の「島原温泉ガマダス花火大会」の告知。島原市が呼びかけたことで、
地域の新聞なども取り上げ幅広く駐車場登録の呼びかけが行われた。
http://www.city.shimabara.lg.jp/page4216.html

 「地域の人々はイベントの時には駐車場が不足していることを知っています。『地元の問題解決に協力したい』という意識があるから駐車場の提供には協力的です。それに自治体が前面に出ている安心感もあります。東京のベンチャー企業だけでは誰も登録してくれませんからね」
アビスパ福岡は軒先とシェアパーキング・サプライヤー契約を締結し、
公式戦当日のレベルファイブスタジアムのある東平尾公園内の駐車場を予約制として開放。
駐車場不足と交通渋滞の解消に取り組んでいる。
 軒先では、「地域連携型駐車場シェアによる観光課題の解決」が評価され、総務省が主催する「ICT地域活性化大賞2017」の奨励賞を受賞した。同賞は、地域が抱える課題を解決するために情報通信技術(ICT)をクリエイティブに利活用した事例を顕彰するもの。軒先の取り組みはビジネスとしてだけでなく社会貢献事業としても評価されているのだ。
「ICT地域活性化大賞2017」の奨励賞を受賞した軒先の「地域連携型駐車場シェアによる観光課題の解決」。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000157.html


「20年までに5万台」
コンビニ並みの普及を目指す
 
 今後、軒先パーキングの登録駐車場はどこまで増えていくのだろうか? ここ数年は駐車場のシェアリングサービスも増えており、軒先パーキングの競合も現れているようにも思える。だが、西浦氏はあくまで前向きだ。
 
 「駐車場のシェアリングはどのサービスも規模の面ではどんぐりの背比べの状況。まだパイを奪い合う状況ではありません。タイムズの駐車場が全国に50万台。コインパーキングでは700万台。そして自動車の数は7,000万台に上ることを考えれば、まだまだ市場開拓の余地があります」
 
 西浦氏が一つの目安と考えるのは平成31(2019)年のラグビーワールドカップ、そして平成32(2020)年の東京オリンピック・パラリンピックだ。インバウンド観光客を含め、車での移動が確実に増えることが見込まれ、駐車場のニーズは急増する。
 
 西浦氏は日刊自動車新聞のインタビューで「シェア駐車場は、20年までに5万台(車室)を目指す。従来の時間貸駐車場とは異なり3〜4倍のスピードで増えると見込む」と答えている(※)。5万件といえば大手コンビニチェーンの国内店舗の総数に匹敵する。都心部で言えばワンブロックに1台の軒先パーキングが整備される状況を西浦氏は目指しているのだ。
 
 また西浦氏は、すでに獲得している場所に新しい利用方法を付加していく余地も将来的にはあると語る。例えば、現在は駐車場として登録してもらっている場所を、シェアサイクルのステーション、ドローンの充電スペースなどと兼用したり、エンターテインメントやヘルスケアなどの分野での利用へ展開することもありうるのだ。西浦氏は今後のテクノロジーの発展とシェアリング・エコノミーの進展によって場の活用法は多様化していくと考えているのである。

※「日刊自動車新聞」平成29(2017)年4月3日付
 
気軽に『ワンデイ起業』できる
ワンストップ環境を整えたい
 
 平成32(2020)年に向けて、軒先パーキングのシェア獲得に注力する軒先だが、一方で西浦氏は軒先ビジネスの分野も今後、成長していくと期待を寄せている。軒先では、平成28(2016)年10月に日本ユニシス(株)と業務提携を締結。同社が運営するキッチンカーの情報サイト「HOTRICO」を通じて協業していく発表をした。
 
 「キッチンカーでの起業を目指す方のセミナーに参加すると、主婦や会社員の方も多くいます。飲食に限らず、自分の得意な分野で稼ぎたいという方は多い。平日は会社で働いて、週末は移動販売で好きな特技を生かした仕事をする。そういったライフスタイルも今後は広まっていくのではないでしょうか」
 
HOTORICOのホームページ。キッチンカー事業の希望者が参加したセミナーを開催。
https://hotrico.jp/feature/hotrico_seminar01/2/

 
 
 西浦氏は将来的には場所の仲介にとどまらず、移動販売のスタートアップのビジネス支援もしていきたいと考えている。
 
 「軒先には、この10年間に蓄積したノウハウがあります。そのノウハウを活用すれば、より効率的にビジネスを軌道に乗せられます。例えば、場所を仲介するだけでなく、必要なキッチンカーも最適なものを弊社が開発して、場所とセットで提供するということも可能です。現状の軒先ビジネスは完全に事業者向けの場所の仲介サービスですが、移動販売車の貸し出しサービスにも踏み込んで、主婦や学生といった一般の方が、もっと気軽にワンストップで『ワンデイ起業』できる環境を整えていきたいですね」
軒先ビジネスのターゲット。裾野に広がる個人ユーザーを今後は開拓していきたい考えだ。
 
まちづくりのパーツとして
軒先が活用されることを目指す
 日本では少子高齢化が進んでいるが、とりわけ地方の状況は深刻だ。人口減少によってコンパクトシティ化が進んだ時、従来のような巨大な商業施設は不要になる。「サービスを買いに行くのではなく、サービスを届けることが当たり前の時代が来るのでは」と西浦氏は指摘する。
 
 「モノだけを買うならamazonでも十分な時代になりました。でも、体験価値は直接サービスを受けなければ得られません。様々な法規制はありますが、移動式でサービスを届け、販売する仕組みが必要です。歯医者、美容室、メガネ店など、お店に来てもらうのではなく、お店がお客様の元に行くスタイルが広がっていくと私は思います。いろんなかたちで、小売の形態が移動方式にスイッチしていくと思います。お客様の元に来てくれるリアルなサービスとITを掛け合わすことで、きっと新しいことが生まれるはずです」
 

取材中、積極的に意見交換を交わす西浦氏と本研究所の池澤守アドバイザー。
 
 自身が「テスト販売できるちょっとした場所を借りたい」という純粋な発想を持ち、それを提供する仕組みを作ることで助かる人々がいるはずだという思いから、軒先を起業した西浦氏。そのビジネスモデルは世界的にも画期的であり、急成長を遂げている現在のシェアリングビジネスの先駆けとなった。西浦氏は今も、湯水のように湧き上がる斬新なアイデアをもとに市場を牽引している真っ最中である。では、軒先ビジネス、軒先パーキングの後には何が続いていくのだろうか?
 
 「『軒先』という日本古来の言葉から多くの方々がポジティブなイメージを連想してくれます。そのイメージから様々なアクティビティを全方位に広げていきたい。まちづくりのひとつのパーツとして軒先が活用されることを目指していきます」
 
 にぎわい空間研究所では、今後も軒先が切り拓いた、インターネット上のマッチングプラットフォームが結ぶスペースシェアリングビジネスの未来に注目していきたい。(了)



 
<Data>

名称:軒先ビジネス
業種:スペースシェアサービス
サービス開始:平成20(2008)年4月8日
登録物件数:2,500件(平成29(2017)年12月現在)
会員数:4,000社(同)
ウェブサイト:https://business.nokisaki.com
 
名称:軒先パーキング
業種:駐車場シェアサービス
サービス開始:平成24(2012)年10月17日
登録物件数:約6,000件(平成29(2017)年12月現在)
会員数:18万人 (同)
ウェブサイト:https://parking.nokisaki.com

事業主体:軒先株式会社
本社所在地:〒100-0004 東京都千代田区大手町2-6-1 朝日生命大手町ビル 3F
創業:平成20(2008)年4月8日
会社設立:平成21(2009)年4月23日
資本金:1億8,775万円
代表者:代表取締役 西浦明子
事業内容:1日からお店が開けるスペースの検索・予約サイト『軒先ビジネス』の運営/社会問題を解決するシェア型パーキングサービス『軒先パーキング』の運営/保険代理事業
ウェブサイト:https://www.nokisaki.com
 

研究レポート一覧

会員登録されている方は、本レポートをPDFファイルでダウンロード出来ます

TOPへ