「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

研究レポート

「VeryGoods」(展示会)/日本プラスチック日用品工業組合

”売る”から”創る”へ 〜発想の転換が生んだ業界展示会の復活劇〜 Vol.02

2016.04.21 facebook
編著:にぎわい空間研究所編集委員会

初めて体験する消費者とのコミュニケーション
リアルな声が新しい商品づくりの種となる
 展示会のタイトルは「VeryGoods」に決まった。「素晴らしい」という意味の「VeryGood」と「商品」という意味の「goods」を掛け合わせた造語だが、展覧会のコンセプトを的確に表現しているコピーと言えるだろう。参加するメーカーは知恵を絞りながら唯一無二の「逸品」を生み出そうとしている。これまで、直接出会えなかったエンドユーザーに向けて、誇りを持って優れた商品を伝えたいという気概が込められたコピーなのだ。もちろん安全性の面でも厳しい基準をクリアしている自負がある。
 初回のVeryGoodsは結果として来場者数の65%が一般消費者という成果を生んだ。 改めて展示会を一般消費者向けに転換したメリットはどこにあるのだろうか?
「補助金で運営するため、組合メーカーは出展料が不要ですので、予算をかけずに宣伝とマーケティングを行えます。エンドユーザーとコミュニケーションしながら、意見を商品づくりに生かすことができる。問屋や大手量販店のバイヤーからしか聞けなかった意見を消費者から直接聞けるのは、大きなメリットになっています」
 VeryGoodsに出展した企業から聞かれたのは、「自分たちの考えていることと、消費者のニーズとの隔たりがあった」ことだ。メーカーは機能性を高めることこそが商品の付加価値であると考えがちである。しかし、消費者は「きれい」「かわいい」「便利」「簡単」といった感覚的な心地よさを求めている。そのギャップを直接、確認できたのは商品開発の方向性を決めるうえで大きなヒントになった。最近では、流通業界のバイヤーたちもVeryGoodsを通じて得た消費者のニーズについて評価をし始めている。例えば、ある流通関係者は、消費者の反応のよい商品の売り場を広げようと提案してくれたという。流通のプロと言えども、エンドユーザーから直接ヒアリングする「生の声」にはかなわないのである。
 VeryGoodsの会場で各メーカーのブースに立つ担当者と話してみると、どこか温かい気持ちになる。その理由はなぜかと考えてみると、多くの担当者たちが「営業慣れ」していないのである。それもそのはずで、出展メーカーの多くは商品企画の担当者を中心に接客させているのである。
 日頃顧客とは接することのない担当者たちは、営業トークには慣れていないが、商品づくりの種を拾おうとする意欲に溢れている。だからこそ、来場者とのコミュニケーションが自然に生まれるのである。それが、VeryGoodsの温かみのあるにぎわいの理由だと言える。
生き残りをかけたB to Cへの大転換
日本プラスチック日用品工業組合の専務理事、中村公貴氏。
消費者との交流を生むための仕掛けづくり
独自の小間割りが生んだ絶妙な距離感
 とはいえ、最初の年からスマートに対応できていたわけではない。
「2012年の初回では、スーツを着た担当者がブースの前に仁王立ちしている会社も多く、来場者から『商品が見えない』『威圧感があって怖い』といった意見が寄せられ、事務局が急遽、『スーツを脱いで接客してください!』と伝達したこともありました」
 日本プラスチック日用品工業組合では、昭和57(1982)年から「プラスチック日用品優秀製品コンクール」を実施している。これは組合に参加するメーカーの新製品を経済産業省や特許庁、デザイン関係の団体などの審査員が評価するものだ。VeryGoodsでは2年目の平成25(2013)年から前年の受賞作品をポスターやチラシのビジュアルに散りばめるようにした。すると、「この商品どこで買えますか?」と聞いてくる来場者も現れるようになった。
 VeryGoodsの事務局では、出展企業に何かを販売するよう呼びかけている。だが、最初の年は出展する30社のうち10社ほどしか販売しなかったという。メーカーは、問屋や流通業者を通さずに直販してはならない、という暗黙の了解があるからだ。だが、事務局の意図は売り上げではなく、来場者とのコミュニケーションにあった。欲しいという気持ちが生まれたエンドユーザーとの会話ができることで、より多くの情報を得ることができるのだ。来場者からも「買えるようにしてほしい」という声が多く寄せられたことによって、販売を行う出展企業も増え、現在ではほとんどの出展企業が販売もしくはサンプル配布を行っているという。
 会場づくりにおいても、出展企業と来場者がコミュニケーションしやすい工夫が凝らされている。展示会の常識だと1コマのブースは3m×3mの正方形である。VeryGoodsでも初年度はこの規格でコマ割りを行った。しかし、来場者から「奥行きがありすぎて入りづらい」という声が多く寄せられた。来場者は一般消費者だ。ブースで商談をするわけではないので、歩きながら商品を身近に見て、触れる距離感のほうがよいのだ。そこで2年目からは、1コマのブースを3.5m×1.5mのサイズに変更した。さらに、会場のレイアウトも長方形の会場の外側にブースを作って、来場者が一方通行で通路を回遊するように設定した。これであれば、確実にすべての会社のブースの前を通過することになるのである。
生き残りをかけたB to Cへの大転換
VeryGoods 2015のフライヤー。
前年のコンクール入賞商品を紹介することで、販売促進の要素も盛り込んでいる。
ショッピングセンターが失った
優れもの探しのワクワクがここにある
 最近、ショッピングセンターの日用品売り場に行っても、「こんなものあったんだ!」と驚くような商品に出会うことは滅多にない。店側が確実に売れる定番商品しか置かなくなり、またその多くがプライベートブランドになってしまっているからだ。つまり、大規模商業施設が我々の消費の機会を支配していくうちに、ユニークな商品との出会い、商品選びを楽しむ場が失われてしまっているのである。だからこそ、VeryGoodsに来ると心が躍る。世の中にはワクワクさせてくれる商品があり、それを生み出しているメーカーもあることを実感できるのだ。
 平成24(2012)年に始まったVeryGoodsは2015年で4年目を数えた。最初の2年間は厚生労働省の補助金、そして2014年と2015年は全国商工会連合会の補助金で会場費などを賄った。こちらの補助金も今年で終了だ。専務理事の中村氏によると、業界団体向けの補助金は少なく、2016年度の予算となる補助金を獲得できるかはまだ未知数だという。
「最近は、『補助金に頼らず自前で展示会を継続してもよいのでは?』という声も聞かれます。エンドユーザーと交流し、会場のにぎわいに刺激されること、それがメーカーのモノづくりに好影響を与えるという実感があるからだと思います。これからも展示会を続け、組合員企業の売り上げアップにつながるような仕掛けを作っていきたいですね」
 組合の存在意義をかけて、展示会のターゲットをB to BからB to Cへシフトした日本プラスチック日用品工業組合。起死回生を賭けて業界の常識を打ち破ったことが、エンドユーザーとの交流とマーケティングの機会を実現した。VeryGoodsが放つ独特の熱気は、自分が求めるモノを探す消費者と、商品づくりのアイデアを求める商品開発者が出会い、生まれるコミュニケーションによるものだった。(了)
生き残りをかけたB to Cへの大転換
会場のイベントブースでは出展企業による商品紹介のプレゼンテーションも行われた。
一般消費者への説明はメーカーにとっても貴重な経験となる。
<Data>
名称:VeryGoods 2015
種別:展示会
主催:日本プラスチック日用品工業組合
会期:2015年10月29日(木)〜31日(土)
開場:29日 16:00〜20:00、30日 10:30〜20:00、31日 10:30〜17:00
会場:東京交通会館12階ダイヤモンドホール(東京都千代田区)
入場:無料
会場面積:980㎡
出展者数:33社
イベント内容:参加企業ブースでの新製品の紹介、イベントブースでの各企業の製品プレゼンテーション、来場者によるVeryGoodsランキングおよびトレンド調査、プラスチック日用品優秀製品コンクール表彰式・特別展示
来場者数:延べ3,000人(3日間合計)
企画・制作・施工・広報:(株)フジヤ
ウェブサイト:http://www.jpm.or.jp/verygoods/

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
会員登録されている方は、本レポートをPDFファイルでダウンロード出来ます

TOPへ