「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

研究レポート

テック化がもたらすリアル空間ビジネスの未来

【インタビュー】
革新的な不動産テックサービスが、不動産の新たなビジネスのあり方を創出する

一般社団法人不動産テック協会代表理事 赤木正幸氏

2019.11.20 facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
データの信憑性と接続性の高さが
テックサービスが生まれる土壌
―まず、アメリカの不動産テックの状況を教えていただけますか?
 
赤木正幸氏
リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO/一般社団法人不動産テック協会 代表理事 森ビルJリートの投資開発部長として不動産売買とIR業務を統括するとともに、地方特化Jリートの上場に参画。太陽光パネルメーカーCFO、三菱商事合弁の太陽光ファンド運用会社CEOを歴任。平成28(2016)年に不動産テックに関するシステム開発やコンサル事業等を行なうリマールエステートを起業。日本初の不動産テック業界マップを発表するとともに、不動産テックに関するセミナー等を開催するほか、不動産会社やIT企業に対してコンサルティングを実施。自社においても不動産売買の業務支援システム「キマール」( https://kimar.jp )を展開。平成30(2018)年に一般社団法人不動産テック協会を設立し代表理事に就任。
赤木:アメリカでは今、テクノロジーを活用することで不動産業が拡大しています。例えば、不動産の買取から転売までをインターネット上で完結するサービスも登場しています。iBuyerというビジネスモデルは価格査定のアルゴリズムを利用し、売り手から直接物件を買い取って、転売するものです。
 
iBuyer事業を展開する大手プレイヤーのひとつ「Opendoor」のウェブサイト。
出典:https://www.opendoor.com

 こういったサービスが成立する背景には、アメリカではMLS(Multiple Listing Service)というデータベースがあり、不動産業者は住宅の売買に関する成約価格や修繕履歴、納税記録などのデータを登録する義務があり、登録しなければMLSを使えないという厳格なルールに基づいて運用されています。信憑性の高い成約データを分析して、買取価格や転売価格の予想が行えるのです。
 MLSはアメリカのエリアごとに管理されており、そのデータがAPI(Application Programming Interface)によって接続されているのです。データの信憑性の高さ、データベースへの接続性の高さがあるからこそ、アメリカでは不動産テック企業がMLSのデータを使ったサービスを作りやすいのです。
 データがオープンになることで、情報にアクセスしやすくなると、それだけ情報の流動性が高まり、不動産流通が活発になります。不動産テックの進展は、経済を活性化させる効果があります。
 
MLSのトップ画面。州ごとに物件の検索ができるほか、抵当流れ物件、新築、集合住宅、海外物件などのカテゴリーからも検索が可能。
出典:http://www.mls.com
 
―同様のサービスを日本で実現することは可能でしょうか?
赤木:現状では難しいですね。日本では成約価格のデータベースがないので、それを作るところから始めなければなりません。募集価格のデータベースはありますが、そのデータをいくら集めたところで成約価格にはならないのです。ただ、投資用のマンションの市場は相場感があり、ボリュームも大きいのでネット上での売買で完結できる可能性はあります。アメリカの不動産テック技術を日本に導入できるかは、実不動産の部分でどこまで共通点があるかがポイントになります。
 
―事業用不動産の情報に関してもアメリカはオープンなのですか?
赤木:事業用不動産に関しては日本と同様、賃料などは公開されていません。テナントごとに入居時期によって賃料は異なりますから、オープンにすると問題が生じるおそれがあります。他にもオープンになっていない情報は多く、やはりキーパーソンとの人間関係から情報をもらうのが一般的です。質のよい不動産物件のオーナーとつながっている仲介業者はビジネスでも優位な立場にあるのは日本と同じですね。
 
建物内の人の流れをIoTでつかみ、
次なる提案を打ち出していく
―アメリカの不動産テックで日本よりも進んでいるのはどのような分野でしょうか?
赤木:IoTを使って、ある物件に住んでいる人の行動履歴やオフィスの人の流れを収集し、そこからビジネスが生まれています。IoTのメリットは、人間が取れないデータを収集することです。IoT機器を設置して情報を得れば、その情報は不動産オーナーのものになります。
 最近はネット通販など、モノの購入も自宅で行われることが多くなりました。そういったデータが収集できれば、面白いビジネスを生むことができるでしょう。スマートスピーカーにしても、ロボット掃除機にしても、Wi-Fi経由で設定をするので、データを取得、蓄積することは可能です。ゴミの量や家具の配置は住んでいる人の生活を知るうえで貴重なデータになります。
 
ロボット掃除機「ルンバ」(アイロボットジャパン合同会社)では、月額定額制のプランも提供され、より気軽に利用できるようになっている。
出典:https://www.irobot-jp.com/robotsmartplan/
 
―具体的にはどのようなサービスが想定できますか?
赤木:オフィスでの人の流れでいえば、面積に対して働いている人の数が多ければ増床の可能性があり、また人が減っていれば、よりコンパクトなオフィスへの移動が考えられます。従業員が少ないのにオフィスへの来客が多ければ、より利便性の高いオフィスへ移動する可能性もあります。そういった予測を基に、新たな物件を提案できるし、移転を食い止めるためのサービスを強化するなどの施策を打てるのです。もちろん、こういったデータはオープンにはなりません。データを持っている優位性がありますから。
 
―不動産テック企業が保有するデータをうまく活用した事例はありますか?
赤木:オフィスビルやホテルなどのCRE(Commercial Real Estate:商業用不動産)を扱う会社にVTSがあります。VTSはビルのテナントを管理するシステムを提供する会社です。不動産、オーナー、テナントに関する情報を持っているので、そのデータを基にマッチングを始めました。不動産取引の金額に応じてマッチング料を請求するというプラットフォームビジネスです。本来であれば不動産会社しか持っていない情報を集約し、プラットフォームを作ってしまったのです。不動産仲介会社を通さずに、取引が行われるのかと業界に衝撃が走りました。現在では10億ドルの投資が集まり、ユニコーン企業に成長しました。
 
VTSのウェブサイト。物件管理、テナント管理、取引管理などのサービスを提供する。
出典: https://www.vts.com
 
必要なテックサービスを自ら探し
積極的に活用する米国の不動産業者
―他に日本よりもアメリカが進んでいる分野はありますか?
赤木:不動産の業務支援の分野ですね。建物管理、テナント管理、アセット管理などかなり細分化されています。また、賃貸や売買、投資など業種ごとに紐づいた業務のテック化が進んでいます。
 アメリカで不動産テックが進んでいる理由の一つは、不動産事業者自身が不動産テックのサービスを探し、使って、より便利なものを見つけると乗り換えている状況があることです。サブスクリプションの利点をフル活用しながら、テック化によって業務の効率化や新たなサービスを行っているのです。個人名で活動している不動産エージェントは、生き残りをかけていますから、不動産テックをフル活用しながらサービスを充実させています。
 残念ながら日本では不動産会社が自ら不動産テックのサービスにアクセスすることは多くありません。私が経営する会社でも不動産事業者向けに業務支援の不動産テックサービスを提供しているのですが、インターネット経由で検索されることがほとんどありません。営業をかけるときはターゲットの会社の担当役員宛てに手紙を書き、直接、会いに行って説明しています。テックのサービスを提供しながらも、手法はアナログそのものです。でも、それが日本の不動産テックの状況を如実に表していると思います。
 
アメリカの不動産テック業界のイベント「Inman Connect Las Vegas 2019」では、最先端のビジネスモデルが紹介される。
出典:“Real Estate Webmasters: Inman Connect Las Vegas 2019”
法整備が進んでいないことを
新たなテック開発の強みにする
―アジアなどの新興国での不動産テックの可能性はいかがでしょうか?
赤木:不動産テック企業は、欧米だけでなく、インドや中国、東南アジアで増えています。東南アジアでは、ガソリンをポリタンクから入れている脇で、道ゆく人々はスマートフォンで話しています。日本の終戦直後の風景と現代の風景が共存している状況で、一足飛びに最新の不動産テックサービスが導入されるというアンバランスな状況が生じているのです。
 
中国の不動産テックカオスマップ
出典: https://technode.com/2019/01/11/infographic-prominent-proptech-players/
 
 それが利点となる可能性もあります。東南アジアでは法整備が整っていないので、新たなビジネスを構築するのには好都合かもしれません。
 例えばブロックチェーンによって不動産を小口のトークン化して流通するサービスが登場しています。しかし日本など先進国では金商法(金融商法取引法)が厳しいので実現が難しいのが実情ですが、以前、ミャンマーでこのサービスの話をしたときは、金商法に該当する法律がA4用紙で20枚ほどの分量しかない状況でした。規制する法律そのものがない状況なのです。
 将来的には、東南アジアで構築された不動産テックのサービスによって、日本の不動産が流通し、諸外国の人々が保有することもあり得るのです。
 東南アジアでも、不動産テックの事業を行っている人々は世界を相手にしようとしています。私は、年に数回、海外で行われる不動産テックのイベントに参加していますが、各国の企業から「なぜ日本語でサービスを提供するのか? 英語版はないのか?」とよく聞かれます。日本の個別の事情に対するサービスは日本語でよいのですが、世界共通のサービスであれば英語版を出して世界にリリースすることが当然だと海外の不動産テック企業は考えるのです。
 
海外と日本のサービスの「差」が
不動産テック企業のビジネスチャンス
―今後、どのような分野で不動産テックは進んでいきますか?
赤木:ブロックチェーンの分野ですね。不動産をトークン化して、仮想通貨として流通させる。不動産のトークン化は今後進んでいくはずです。全米不動産協会(NAR)は不動産のトークン化ベンチャーであるPROPY社に出資しています。全米規模の不動産団体が出資するということは、新しい技術を取り込まなければならないという危機感が高まっているのでしょう。
 
平成31(2019) 年 3 月 、積水ハウス、KDDI、日立の3社は、企業間の情報連携基盤の実現に向け協創を開始すると発表。その第一弾として、本人確認情報をブロックチェーンで連携し、賃貸契約の利便性向上の検証を開始した。
出典:https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/19/20190319.pdf#search=%27積水ハウス+ブロックチェーン%27
 
―日本の不動産業界は不動産テックのどの分野に注目すべきでしょうか?
赤木:投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディングの分野ですね。日本の不動産事業は、銀行からの資金調達次第、という側面があります。クラウドファンディングは、今までにない資金調達方法です。1億や2億であれば、10分から20分で集まります。なぜ、個人投資家からこの規模のお金が集まるのか、日本の不動産業界はきちんと分析するべきだと思います。銀行に頼らずに資金を調達できるクラウドファンディングは、不動産業界が活性化するひとつの手段であることは確かです。
 不動産のテック化が進めば、得られる情報が多くなっていくのは確かです。情報を受け取る消費者の側もリテラシーを求められるようになるでしょう。
 例えば「VR内見」のサービスも出始めています。私はよく、友人からよい賃貸物件の見分け方を聞かれると、「ポスト、ゴミ置場、駐輪場」を見ればよいと答えます。管理が行き届いているか、住民のマナーの度合い、子どもが多いかなどが分かります。しかし、VR内見では都合の悪い場所を写さないケースもあるので、情報の受け手側に情報を見極める能力が求められるのです。ネットで完結して、後からトラブルになるケースも増えるでしょう。
 
ナーブ株式会社が提供するVR技術を使った内見システム「VR内見」
出典:https://www.nurve.jp/naiken/
 
―最後に不動産テックビジネスは今後、どのように進展していくでしょうか?
 
赤木正幸氏
リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO/一般社団法人不動産テック協会 代表理事
 
赤木:海外の不動産テックの事例から学ぶことは多いと思います。そして、日本の不動産テック業界が海外とどのように関わっていくかが問われていきます。海外にあって、日本にない不動産テックのサービスがあります。しかし、その一方で、日本にはあるけれど、海外にはないテックもあるのです。その「差」こそが、不動産テックのビジネスチャンスだと私は考えます。
 
―ありがとうございました。
 
DXの促進による変革は
リアル空間産業に訪れる
 ICTの進展によって実現可能となったデジタルトランスフォーメーション(DX)は、あるゆる産業で、かつてないサービスを創出するとともに、ビジネスモデルや企業の業務そのものを変革していく。そして何よりも私たちのライフスタイルを一変させていくのだ。
 産業革命、情報通信革命に続く、新たな革新的変革であるDXの波を避けて通ることはできない。リアル空間でのサービスを提供する事業者も変革のためのテック化に勇気をもって挑戦していかなければならない。それを成し遂げられなければ、未来はやってこないのである。
 旧態依然な商習慣からテクノロジーによって脱却しようと変革への挑戦が始まった不動産業界。その変革を促進していく不動産テックの動向は、他のリアル空間産業においても大いに参考になると考えている。にぎわい空間研究所では今後も特筆すべき事例を研究、レポートしていく(了)。
 
<Data>
名称:一般社団法人不動産テック協会 / 英名:Real Estate Tech Association for Japan(略称RET)

目的:不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産に係る事業並びに不動産業の健全な発展を図り、国民経済と国民生活の向上並びに公共の福祉の増進に寄与することを目的とし、その目的に資するため、次の事業を行う。

設立:平成30(2019)年6月

理事・監事:
代表理事 赤木 正幸(リマールエステート株式会社 代表取締役社長)
代表理事 武井 浩三(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役)
理事   浅海 剛(株式会社コラビット 代表取締役社長)
               一村 明博(株式会社ZUU 取締役)
               落合 孝文(渥美坂井法律事務所 弁護士)
               金子 洋平(iYell株式会社 社長室長)
               滝沢 潔(株式会社ライナフ 代表取締役社長)
               豊田 慧(WeWork japan リージョナルディレクター)
               西浦 明子(軒先株式会社 代表取締役社長)
               巻口 成憲(リーウェイズ株式会社 代表取締役社長)
監事   渡邊 浩滋(税理士・司法書士 渡邊浩滋総合事務所 代表)

主な活動:情報化・IoT部会、流通部会、業界マップ部会、海外連携部会、不動産金融部会

会員数:90社(令和元(2019)年10月31日現在)


※上記のデータは令和元(2019)年10月31日現在

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