不動産業界に革命児が出現した。スマホひとつで手続きが完了できる賃貸住宅界のプラットフォーマー「OYO LIFE(オヨ ライフ)」である。
令和元(2019)年3月28日に開始されたOYO LIFEのサービスの特徴はまず、物件探しから申し込み、審査、さらには退去・転居の手続きまでをスマートフォンひとつで完結できることにある。申し込み手続きは最短で30分、早ければ翌日から入居できるという迅速さだ。家電や家具を備え付けた部屋も数多く取り揃え、Wi-Fiも完備。家賃は水道光熱費やインターネットの料金が込みである。鍵を受け取れば、ホテルのように部屋に入った瞬間から生活ができるのである。
OYO LIFE と一般的な賃貸住宅の比較。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
通常、賃貸住宅を借りる際には、不動産会社を訪れて物件を検討し、内見をしなければならない。物件を決めても、書面での手続きを行い、保証人の書類を用意し、審査を通って重要事項説明を受け、入居できるまでに少なくとも数日以上は要する。そして、契約には敷金、礼金、仲介料など家賃の数カ月分の初期費用を用意する必要がある。部屋が借りられても、電気やガス、Wi-Fiの開設の手続きをして、家電や家具を買い揃えるなど、生活に必要な環境を整えるには、多大な労力とお金をかけなければないのである。
こういった住宅を借りるうえでの様々な賃貸障壁を徹底的に取り払ったOYO LIFEのサービスの背景には、高度なテクノロジーの活用がある。瞬時に借り上げ家賃を査定するシステム、空室管理と物件検索、申し込みまでが連動するウェブサイト、契約手続きと与信のデジタル化など、賃貸住宅業界では前代未聞の仕組みをテクノロジーによって実現してしまったのである。
OYO LIFEの提供するサービスは、あらゆる領域で進行している「産業テック化(X-Tech)」の先端的な事例と言えるだろう。OYO LIFEは、スマホひとつで手続きを完了し、契約翌日から手ぶらで入居して、快適な暮らしを始められるという革新的なイノベーションを、ICTをフル活用することで実現。賃貸住宅のデジタルプラットフォームという前例のないビジネスモデルを出現させたのだ。
OYO LIFEのスマートフォンのアプリ画面。スマホひとつで完結する手軽さが若い世代の支持を得ている。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN KK
OYO LIFEが誕生した背景にはスマートフォンが我々の暮らしに深く浸透していることがある。スマホはもはや単なる通信機器ではなく、生活に必要なあらゆるサービスへの入り口となる唯一無二のインターフェースなのだ。
ここ20年ほどで、デジタルプラットフォーマーの出現とスマホの普及によって既存のサービスが次々と置き換わってきた。出版や映像、音楽などのコンテンツはもとより、人間の生活に不可欠な「衣」や「食」もスマホによる調達が可能になった。そして、OYO LIFEは最後の砦とも言うべき「住」の分野を切り崩し始めたのである。OYO LIFEは今、スマホで内見なしで部屋を借りるという革新的イノベーションによって賃貸住宅市場を席巻し始めているのである。
OYO LIFEのビジネスモデルは、新たな社会の到来を予感させる。
内閣府は日本が目指すべき未来の社会像として「Society 5.0」を提唱している。Society 5.0とは高度な先端技術の導入によってあらゆる課題が解決していく“超スマート社会”である。内閣府ではSociety 5.0を「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義している(※)。
超スマート社会Society 5.0は、フィジカル空間でIoTなどによって取得された膨大な情報がサイバー空間に集積される。膨大なビッグデータを人間の能力を超えた人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間にフィードバックされるのだ。Society 5.0では、こういった流れによって、新たな価値を産業や社会にもたらすことで、フィジカル空間において経済発展を促すとともに、社会や人々が抱える多様な課題を解決するのである。
今、フィジカルとサイバーの融合を象徴するのはスマートフォンである。あらゆるサービスがスマホとアプリに集約される社会へと我々は向かおうとしているのだ。Society 5.0はいわば「究極のスマホ社会」であり、スマホひとつで賃貸住宅を契約できるようにしたOYO LIFEは、まさにSociety 5.0を先取りした挑戦的な提案なのである。
研究レポートでは、OYO LIFEを運営するOYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社の東京ゼネラルマネージャー、種良典氏へのインタビューを基に、その革命的なビジネスモデルを詳細に解明していく。