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研究レポート

「銀座NAGANO」(店舗/公共施設)/長野県

信州の価値を銀座で磨く 〜首都圏での情報拠点づくりとブランド戦略〜 Vol.01

2016.04.21 facebook
編著:にぎわい空間研究所編集委員会

信州の価値を銀座で磨く〜首都圏での情報拠点づくりとブランド戦略〜Vol.01
銀座NAGAOの外観
シックでいて、温かみのある店内に通行客が引き込まれていく。
 東京・銀座4丁目の交差点、三愛ビルの前から有楽町方面に40歩。最初の曲がり角を左へ入り、さらに20歩。そこに現れるのが、長野県の物産品や観光情報を紹介する施設「銀座NAGANO しあわせ信州シェアスペース」である。各県のアンテナショップがひしめき合う銀座・有楽町エリアでも、ここまでの超一等地に施設を構える都道府県は他にないだろう。
 店構えは黒を基調としたシックなデザイン。一見すると、センスのよいワインショップにしか見えない。通りから眺めていると、平日の昼間というのにひっきりなしに通行客が店内に入っていき、ショッピングバッグを持った人々が店から出てくる。OL、主婦、シニア層、ビジネスマン、学生など実に多彩だ。
 店内に足を踏み込むと、壁一面に設置された商品棚には長野県の物産品が整然とディスプレイされている。ふと、不思議な感覚に捉われる。スタイリッシュな空間なのに、どこか温かい。店員が客に商品の説明をしている。耳を澄ますと、客の方が語っているのだ。「私は長野が好きでね。あなたこういう食べ物を知ってるかしら」「ここに来ると元気になる食べ物が一杯だから、買い過ぎちゃうんですよ」、など。スーパーマーケットのように特産品や土産物を売るだけのアンテナショップとは違い、ここには人と人の交流がある。
 平成26 (2014)年10月26日のオープン以来、1年で約80万人にも及ぶ人々を迎えてきた銀座NAGANO。自治体の情報発信の拠点としては、かつてないにぎわいを創出している空間の裏側には、信州というブランドを銀座で磨き、商品の裏側にいる長野県の人々と首都圏の人々を「つなぐ」という強い意志があった。
食、文化、観光、移住・就職
長野県の魅力を満喫できる複合施設が誕生
 まず、銀座NAGANOのフロア構成を紹介しよう。1階は特産品を紹介するショップスペース。入り口側のフロア中央にはカウンターが設けられ、ワインや日本酒、そして月替わりでの料理やスイーツが手頃な価格で楽しめる。
 店舗の奥へと進んでいくと、壁一面にぎっしりと商品が陳列されている。その特徴は商品の種類の豊富さだ。アイテムごとに最低でも数種類、多いものだと十数種類の品揃えである。高級なものから手頃なものまで揃っているし、県や国の制度を利用した割引も行っているので、ついつい手が伸びてしまう。
 ショップの左手には2階へと続く階段がある。細い階段を上がっていくと、1階の重厚な雰囲気とはうって変わって明るい空間が広がる。ここはイベントスペースで、日替わり、さらには時間帯ごとに異なるイベントが行われている。フロアの中央にはオープンキッチンがあるので、県内の自治体が地元の食文化を紹介するイベントを開催するにはうってつけの会場である。
 フロアの一画には、県内のコーヒー店の味を楽しめるカフェカウンターもある。信州の陶器でコーヒーを飲みながら、所狭しと置かれた観光パンフレットを眺めながら、観光大国・長野県の奥深さに圧倒されるのである。
 フロアの奥には上階へとつながるエレベーターがある。4階は移住交流・就職相談のカウンターがあり、長野での生活について話を聞くことができる。フロアには会議室やテーブルなども設けられている。ここは、コワーキングスペースといって、仕事の打ち合わせなどができる空間。長野県に関するビジネスを展開したい人々が出会い、新しい価値の芽を育てる場所なのである。
 このように銀座NAGANOは、長野県の特産品や食文化を紹介するショップスペース、県内の各地域に暮らす様々な人々が登場して信州の魅力を紹介するイベントスペースや観光インフォメーションコーナー、そして首都圏の人々が長野に移住するための相談や新しいビジネスを育むためのスペースから成っている。まさに、東京のど真ん中で、信州を体験できる複合施設と言えるだろう。
信州の価値を銀座で磨く〜首都圏での情報拠点づくりとブランド戦略〜Vol.01
1階フロアにある飲食カウンター。
ソムリエとの会話を楽しみながら、信州のワインや日本酒を味わえる。
揺らぐ信州ブランドへの危機感から
首都圏での新たな情報発信拠点を計画
「銀座NAGANOが生まれた背景には強い危機感がありました」と語るのは、この施設の立ち上げにおいて陣頭指揮を執ってきた所長の熊谷晃氏である。
 戦後、長野県では国による大規模な農地開発が行われ、その後は県が別荘地などの観光地開発に力を入れてきた。人と自然の共生が育む豊かな文化を持つ長野県は、夏は避暑地として、冬はスキーのメッカとして正に“観光大国”と呼ぶにふさわしい高いブランド力を誇ってきた。だが、いつしかその地位は揺らいでいった。
「10年ほど前から民間の研究機関が都道府県別のブランドランキングを発表していますが、長野県の順位は10位ぐらい。北海道、京都、沖縄、東京の次ぐらいには位置していると思っていましたから、初めて見たときはかなりショックでした。さらに長野新幹線が北陸まで延線されたことで北陸新幹線となり、長野は通過駅になってしまった。改めて信州ブランドの再構築と首都圏での情報発信力の強化が必要だと感じたのです」
 長野県では、平成24(2012)年に「信州ブランド推進室」を立ち上げた。「しあわせ信州」というイメージ戦略のもと、情報発信とマーケティングの強化という行動計画が掲げられた。その内の首都圏戦略の目玉となるのが、「信州首都圏総合活動拠点」、後に銀座NAGANOの愛称で呼ばれる施設を都内に設けることだったのだ。
 長野県ではこれまでも、日本橋、八重洲、有楽町などで観光情報センターやアンテナショップを設けてきた歴史がある。他県が路面店で個店を構える中、有楽町の大規模ビルの一角で展開することの限界を感じ、新たな情報発信の拠点を設けることになったのだが、場所選びで重視したのは施設の目的(コンセプト)を踏まえることだった。
「一般的にアンテナショップを設置するということは、商品づくりにつなげるためのマーケティングが目的です。しかし、長野県はブランド戦略のために施設を設ける。そして、信州ブランドを発信するだけでなく、その価値を高めることが重要。そのためにはブランドが厳しく磨かれる場所に立地しなければ意味がないと考えたのです」
 新宿、渋谷、青山、表参道、新橋、日本橋、八重洲。都内の主要なターミナル駅には、それぞれの特徴がある。調査をした結果、ブランド戦略に最も適しているのが銀座だった。古きよき東京の伝統と世界ファッションが集積し、常にマスコミの注目を浴びる街、銀座。ブランドを磨くのであれば、銀座しかないとプロジェクトは判断したのである。
信州の価値を銀座で磨く〜首都圏での情報拠点づくりとブランド戦略〜Vol.01
信州首都圏総合活動拠点(銀座NAGANO)所長の熊谷晃氏

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