「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

にぎわい空間創出FORUM2018
Event Report

にぎわい空間創出FORUM2018

研究セッション②
“シェアリングエコノミー”がもたらす『空間革命』

2018.12.13facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
「にぎわい空間創出FORUM2018」セッション②
 

消費概念の変革「シェアリングエコノミー」が
“空間ビジネスのパラダイムシフト”を引き起こす

 使いたいモノやサービスがあれば、購入するのではなく、個人間で共有すればよい----。共有型経済「シェアリングエコノミー」の登場によって、消費のあり方は「所有」から「共有」へと劇的に変わり始めている。

 研究セッション②「“シェアリングエコノミー”がもたらす『空間革命』」では、空間シェアのマッチングプラットフォームを構築し、日本のシェアリングエコノミーを牽引する二人のファーストペンギンが登壇する。

 スマホアプリによるマッチングを実現し、未活用空間のシェアビジネス、とりわけ個人間のマッチングでは国内トップランナーの「スペースマーケット」を率いる重松大輔。そして、シェアリングビジネスの世界的なパイオニアとして、スモールビジネスの機会を提供するとともに、社会問題の解決にも貢献する西浦明子である。

 消費の概念を根底から覆す「シェアリングエコノミー」が引き起こす空間ビジネスのパラダイムシフトとは何か? 日本の空間ビジネスのあり方に変革を起こし続けている二人のリーダーが登壇する。
 

【パネラー】
重松大輔(株式会社スペースマーケット 代表取締役社長/一般社団法人日本シェアリングエコノミー協会 代表理事)

西浦明子(軒先株式会社 代表取締役/一般社団法人不動産テック協会 理事)

【担当研究員】
中郡伸一(にぎわい空間研究所 所長)

【モデレータ】
池澤守(株式会社池澤守企画 代表取締役)

 
 

(文中敬称略)



不特定多数の個人が結びつき
新たな空間利用が生まれている

池澤:まずは担当研究員の中郡さんにお伺いします。このセッションの狙いについてお聞かせいただけますか?

中郡:シェアリングエコノミーは、所有から共有への消費価値のパラダイムシフトを起こし、新たな経済波及効果を生み出しました。さらにミレニアル世代の台頭により、シェアサービスへの関心が高まり、大きく市場を拡大させています。

 空間活用ビジネスにおいても、これまでのスクラップ&ビルド型のビジネスモデルから、空間をマルチ利用するストレージ型のビジネスモデルへと変革が急速に進んでいます。

 これは未活用空間の情報を、ピア・トゥ・ピア(Peer to Peer=不特定多数の個人間同士)で結びつけるマッチングプラットフォームの確立によって、空間のシェアが容易に可能となり、新たな空間利用の発想が生まれてきたのが要因です。
 
ピア・トゥ・ピア(Peer to Peer=不特定多数の個人間同士)で結びつけるマッチングプラットフォーム
 

 空間をシェアすることで、一つの空間から多次元の利用価値を生み出すことが日常化されれば、空間創造事業の手法論が劇的に変わります。

 この斬新な発想による空間のシェアが、空間ビジネスの領域にどのような革命をもたらすのか、その可能性を徹底検証したいと思います。

池澤:ピア・トゥ・ピアですね。ありがとうございました。インターネット上のマッチングプラットフォームによって、まさに不特定多数同士によるピア・トゥ・ピア取引が可能になった。つまり、個人間取引やスモールビジネスなどが可能になったわけです。
 それを仲介しているのが、シェアリングエコノミーのプラットフォーマーの方々です。これが、空間ビジネスにどういう劇的な変化をもたらしていくのか? そこをぜひ、お二人にお伺いしていきたいと思います。


街なかには個人が店を開ける
“空きスペース”がたくさんある

池澤:まず、初めに起業の経緯と狙いについて伺いたいと思います。軒先の西浦さんは、シェアリングエコノミーがまだ一般的でなかった2008年に起業されていますね。よくぞ、そんなに早く思いつかれましたね。

西浦:軒先は2008年にサービスをスタートし、2009年に会社を法人化しました。ちょうど10期目、10年間にわたりシェアリングサービスを行ってきています。シェアリングエコノミーという言葉が使われるようになったのはここ数年で、我々もこういう時代が来るとは思っていませんでした。先見の明があったわけではなく、たまたま時代が追いついてきただけと思っています。
 
「軒先ビジネス」(左)と「軒先パーキング」(右)のウェブサイト

  私がスペースシェアのサービスを始めたきっかけをお話します。私自身は不動産業や空間ビジネス、ITとは縁遠いキャリアを歩んできました。大学をバブルの終わりごろに卒業し、とある電機メーカーに勤めていました。その後、いくつかサラリーマンとしてのキャリアを経ていましたが、ちょうど子どもの出産で勤めていた企業を退職しました。
 
西浦明子(軒先株式会社 代表取締役/一般社団法人不動産テック協会 理事)
 
 出産したのが30代の後半だったのですが、子育てをしながら家で趣味と実益を兼ねてネットショップを開こうと考えました。メーカーに勤めていた当時、海外に5年ほど駐在していたので、その国から雑貨を輸入してネットショップで販売しようと思ったのです。
 
 ただ、輸入しようとしていた商品が日本ではなじみのない商品だったので、いきなり大量に輸入して在庫を抱えてしまうのは危険だなと思いました。素人ながらに、アンテナショップを短期で開き、お客様の反応を見ながら、価格設定を考えてみようと思ったのです。
 
 そこで、短期でお店が開ける店舗はないのかしらと思い、街の不動産屋さんに飛び込みました。私は不動産のノウハウがまったくありましせんでした。不動産屋さんでは「短期で貸せるお店などない」と門前払いをされました。どこの不動産屋さんに行っても同じです。
 
貸主のハードルを下げることに努める軒先ビジネス。西浦氏の取り組みの多くは国内のシェアビジネスのモデルとされてきた
 
 今もそうですが、不動産は長期の賃貸契約を締結して、長期で借りるしか術がないんですね。他にないだろうか?と考えたのですが、きちんと契約して賃貸店舗を借りるか、それともフリーマーケットで日曜日にお店を持つ、というぐらいのオプションしかありませんでした。そこに直面しました。
 
 でも、当時私が借りたかったのは、テーブルを二つ三つ並べられて、のぼり旗を出せる程度の小さな場所でした。お客様に商品を見てもらえるような場所があれば、どこでもお店を開けるのにと思ったんですね。
 
 そういう視点で街なかを見渡してみると、空いているスペースはたくさんあるのです。ショッピングモールのエレベーターの下の三角地帯や建物の出入り口のような場所がたくさん空いていて、そこにテーブルを並べて、商品を売れれば誰でも簡単にお店を持てると着目しました。
 
軒先ビジネスには、さまざまロケーションの空きスペースが登録されている 
 
 そういう場所が簡単に使えるようになり、1日数千円のお金を払ってお店を借りられるようなインフラがあれば、子育て中の主婦でも簡単にお店が持てるのではと思いつきました。
 
 自分の場合は「こういうサービスがあったらいいな」ということを具体的に始めてみたわけです。それが軒先の事業の一番初めのきっかけです。

 
10件にも満たない物件から
マッチングサイトをスタート

池澤:借りたいのに、借りられなければ、普通は諦めますよね。なぜ、それをビジネスにしようと思ったのでしょうか。それほど簡単なことではないと思います。
 
西浦:簡単ではなかったですね。最初は自宅から2駅離れた商店街に行きました。まさにドアノックです。商店街のお茶屋さんやレコード屋さんに行って、「定休日のシャッターの前の畳一枚分のスペースを貸していただけませんか?」と頼みました。
 
 軒先のサービスを始めたのが2008年4月でしたが、サイトをオープンした時に登録された物件数は10件にも満たない状況でした。
 
軒先ビジネス開始当時に登録してくれた学芸大学駅の商店街にあるレコード店。定休日になると店舗前での販売が行われた

池澤:今では「スキマハンター」と言われているそうですね?
 
西浦:ありがとうございます! まさに、今お話したのが、スキマハンターとしての始まりでした。おそらく職業病だと思うのですが、街を歩いていると隙間が目に入ってしょうがない。街を歩いているとお金が落ちているように見える、というのがスキマハンターの職業病かもしれません。
 
池澤:素晴らしいです。ありがとうございます。

 
空き空間を簡単に貸し借りできる
プラットフォームで起業を決意

池澤:スペースマーケットの重松さんがサービスをスタートさせたのは2015年です。スペースシェアというビジネスを劇的に拡大されましたね。現在の登録ロケーションは12,000件を超えるそうです。CMもあるので、そちらも見てみましょう。
 
スペースマーケットの動画広告。パーティ、会議、女子会など利用シーンを端的に紹介
 
重松:ありがとうございます。
 
池澤:この急成長の秘訣を教えていただけますか。
 
重松:2014年に起業して、その4月にサービスを開始しました。2013年の秋ごろ、起業しようと思って、アメリカなど海外のビジネスについて研究しました。海外のビジネスで伸びている分野は何かを注視していました。「Yコンビネーター」「500 hundred startups」など、アクセラレーターたちが投資している会社を見ており、私にもできそうなビジネスはないか?と探していたのです。
 
 当時から、Airbnbの会議室版やイベントスペース版、オフィス版なども登場していました。日本には会議室の検索サイトしかありませんでしたが、軒先さんがすでにマッチングサイトをやられていて、「おおすごいぞ。もう、ビジネスになっている」と思いました。海外のマッチングサービスは、手数料が15〜20%なのですが、軒先さんが35%でやられていたので、「これで成り立つんだ!」という大きな衝撃を受けました。
 
重松大輔(株式会社スペースマーケット 代表取締役社長/一般社団法人日本シェアリングエコノミー協会 代表理事)
 
 私自身は前職でウェディングの写真のビジネスをしていました。結婚式場は平日、空いています。ガラガラなので稼働させたい、という相談をオーナーや支配人から受けていました。自分たちの会社のセミナールームも土日に空いていました。高い家賃を払っていながら、週末はセミナールームが使われておらず、平日は会議室が取れないので自分たちでお金を払って外部の会議室を借りていました。
 
 それであれば空いている場所を簡単に貸し借りできるプラットフォームができるのではと考えました。Airbnbのレンタルスペース版があればいいなと思って、サービスを開始したのです。
 

メディアを活用したPR戦略と
ITの内製が急成長の要因
 
 成長の理由ですが、プラットフォームビジネスは、ニワトリと卵の関係にあります。サプライ側の物件を増やさなければ、利用は増えません。でも、サイトをオープンしても物件は全く増えていきませんでした。当然、ものすごく営業をしました。ありとあらゆる人脈を駆使して、物件を登録してもらいまいた。
 
 メディアの力を借りて、「こんな場所も借りられるんだ!」とインパクトを伝えました。それと、シェアリングエコノミーという言葉が流行りだしてきた時期だったので、「シェアリングエコノミーの最先端!」といったPR戦略をうまく使いました。
 
城、島、球場、寺など、借りられるとは思えないロケーションを獲得し、話題づくりに成功
 
 あとは地道に、アプリのUI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)など使い勝手をよくしていきました。4年半、積み上げてきて、ある程度のボリュームになりました。結構時間がかかります。大企業が「じゃあ、スペースシェアのマッチングを始めよう!」といったところで、なかなか難しいでしょう。

池澤:マッチングサイトとアプリのシステム構築は社内でやられていると聞きました。
 
重松:内製化しています。今、50人ぐらい社員がいますが、半分ぐらいがデザイナーとエンジニアです。カスタマーサポートも自社で抱えています。外部委託にしてしまうと、ユーザーの反応を見てすぐにでも仕様変更しなければならないときに、時間とコストがかかってしまいます。内製していくことが非常に大切でした。
 

花見や花火などのイベントを
快適な屋内スペースに取り込む

池澤:その点の先進性に加えて、もう一方で話題づくりが非常に上手ですね。どうやって、お寺や無人島などを貸すことを考えついたのですか?
 
重松:アメリカでも同じようなプラットフォームビジネスがあり、「マリンモンローの別荘を借りられる」ということを打ち出し、メディアによく取り上げられていました。それを知り、「これだな!」と思いました、借りたいと思っても、なかなか借りられなかったロケーションを借りられるようにすれば話題になると思ったのです。

 それとメディアは画像を撮れないと意味がないので、動画映えするスペースや話題性のあるスペースを獲得していきました。お城や島、野球場ですが、実際借りられているかといえば、そんなに借りられていません。ただ、お寺はよく借りられています。
 
鎌倉の古民家でのオフサイトミーティングの様子。環境の変化で議論が活発に
 
池澤:話題づくりですね。
 
重松:ビジネスの初期はそれでよくて、今は、「インドア花見」や「おうちバーベキュー」ですね。花見を屋外で行うと寒いし、ご飯は冷たくなるし、トイレは汚いし、雨は降る。結構悲惨な体験なんですね。
 
 一方、インドア花見は屋内です。お花屋さんでサクラの花を買い飾って、プロジェクターで青森の弘前城の花筏の映像を投射しながら花見をします。室内なので温かいし、ご飯も冷めないし、トイレもきれいです。やってみると、「実はこれでよかった!」と思うのです。
 
インドア花見のパーティスペース。自社メディア「BEYOND」の記事でメリットを紹介
 
 今年の夏はものすごく暑かったですね。日本は天候不順過ぎますので、週末にバーベキューを予定しても結構な頻度で中止になります。それであれば、部屋を抑えておく。雨が降って屋外でできなくても、レンタルスペースを押さえておけば、楽しい時間を過ごせます。せっかく空けた時間が無駄にならずに済むのです。日本の季節性、そしてマーケティングデータをうまく活用して、ビジネスに生かしています。
 
池澤:スモールビジネスで起業しようと思ったら西浦さんの軒先に相談に行き、面白いスペースでパーティをやりたいときは重松さんのスペースマーケットに相談に行けばよさそうですね。
 

差別化を求められるリアル店舗
ポップアップが新たな流通経路に

池澤:それでは次のテーマです。今、シェアリングエコノミーによって、消費者と市場が大きく変化していますよ。どのような、劇的な変化が起きているのか、ご意見をお聞かせください。西浦さんお願いします。
 
池澤守(株式会社 池澤守企画 代表取締役)
 
西浦:私たちはご商売される方のスペースを扱っています。最近では「ポップアップショップ」「ポップアップストア」といった、おしゃれな言葉で言われています。日本語にすると「短期催事店舗」です。今、短期間の限定ショップを開かれる方が非常に増えています。我々は、こういったニーズがもっと増えていくと思っています。
 
 その理由は大きく二つあると思います。一つ目は消費の行動が変わってきていて、今やamazonがどこにでもモノを届けてくれる時代になっています。わざわざ店舗に行ってモノを購入する理由が薄くなっています。そこに行かないと買えないモノ、そこに行かないと体験できないコト。そういうものがないと、わざわざ時間とお金をかけて、お店に買いに行くというのはなかなか難しくなると思います。
 
西参道の登録物件では、野菜や物産の直販(左)やキッチンカー(右)など様々な事業者が利用する
 
 実際、アメリカのショッピングモールでは、JCペニーやトイザらスなど量販店の閉店が相次ぎ、店舗の入り口をふさぐ壁が自動販売機で埋まっている状況です。
 
 日本の小売業がそこまで悲惨な状況になるのは今すぐではないかもしれませんが、ショッピングモールに行っても同じようなテナントしか出店していない状況もあります。わざわざリアルなお店に行って買い物をする際には強い差別化を求められるようになっていきます。それゆえ、こういったポップアップストア、期間限定のお店が新しい流通のチャンネルになってくるのだろうと考えています。
 
 
従来の不動産貸借の常識が変わり
売り手が消費者の元に売りに行く
 
 もう一つは、消費者の趣味嗜好のサイクルがものすごく早くなっているので、今までのように定期借家契約でロードサイドに20年契約で出店するだとか、7年、8年の定期借家契約でテナントとして出店するのは、どんどんリスクが高くなっています。
 
 そう考えると、もう少し固定費を抑えて消費者のニーズに合わせたかたちで、お客様が求めている場所に、お客様が求める商品だけを持って、必要な期間だけ売りに行く形態が色々なかたちで必要になってくる、と思います。
 
 それに加えて「コンパクトシティ」のような、人口減少社会における買い物難民を救うといった側面も含め、必要な場所にモノを届けに行く「売り場のモビリティ化」は、これから劇的に変化していくだろうと感じています。
 
安心して営業できる場所を求めていたキッチンカー事業者たちは軒先ビジネスの登場にいちはやく反応した
 

地方自治と駐車場シェアで連携し、
渋滞などの社会問題を解決

池澤:なるほど、売り場のモビリティ化ですね。そう言えば、御社の軒先パーキングでは、自治体が花火大会をやる時に駐車場がなくて困ってしまうのを助けたとも聞きました。
 
西浦:弊社ではさまざまな自治体と駐車場シェアのサービスに取り組んでいます。週末、家族で出かけてみたらショッピングモールの入り口で「入庫待ち120分です」と言われて途方に暮れたり、家族で海に行ったはよいけれど駐車場がなくてお父さんが車でウロウロ探す羽目になるなど、駐車場探しにまつわるフラストレーションはたくさんあると思います。
 
アビスパ福岡は軒先とシェアパーキング・サプライヤー契約を締結し、公式戦当日のレベルファイブスタジアムのある東平尾公園内の駐車場を予約制として開放。駐車場不足と交通渋滞の解消に取り組んでいる。

  特に地方の観光地、特に時間貸しのコインパーキングが少ない自治体で特定の期間に大量の観光客が押し寄せるイベントがあると駐車するスペースがなくて、あちこちで路上駐車が見られるようになります。もしくは、駐車場待ちで渋滞が発生します。本当に頻繁に起きています。ただ、特定の期間だけのために予算をかけて駐車場設備を整備するのは難しい。

  そういったときに、まさにシェアリングの駐車場はフィットするサービスです。弊社の場合は、本当に必要なときにだけ地元のみなさんの空いている駐車場を貸し出しするのを自治体と一緒に呼びかけています。
 
長崎県島原市の「島原温泉ガマダス花火大会」の告知。島原市が呼びかけたことで、地域の新聞なども取り上げ幅広く駐車場登録の呼びかけが行われた。
http://www.city.shimabara.lg.jp/page4216.html  

  2年前から始まっているのは福島県の喜多方市との取り組みです。喜多方市には、非常に有名な3kmほど続くしだれ桜の観光スポットがあります。毎年、県外から30万人の観光客が自動車で押し寄せて、お花見の季節になると毎年、市民の方々からは「家の前の路上駐車がひどい!」と市役所に苦情が寄せられています。

  2年前に、このシェア駐車場サービスを導入していただき、市役所の方々と一緒に、「県外から来るお家の駐車場を貸しませんか?」と呼びかけました。市民の方が200台ぐらい駐車場を貸してくれています。
 
「ICT地域活性化大賞2017」の奨励賞を受賞した軒先の「地域連携型駐車場シェアによる観光課題の解決」。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000157.html

  そうすることで駐車場不足の課題を吸収する装置になり、一方で、地元の方には家の駐車場を貸し出すことで、副収入になります。加えて、おもてなしの心が生まれるのです。今まではクレームを言っていた方々が、「ようこそ、いらっしゃいくださいました!」という気持ちになります。これはシェアリングエコノミーのよい側面だと思います。

池澤:素晴らしいですね。社会問題まで解決してしまう。
 

レビューが高く、インスタ映えすれば、
立地や築年数、階層は関係ない

池澤:重松さん、いかがでしょうか?

重松:消費者の嗜好はサイクルがどんどん、早くなっています。それに不動産のフォーマットがまったく追いついていません。不動産には売買と賃貸しか選択肢がなく、タイムシェア(時間貸し)という概念がありません。

 このタイムシェアの概念が最初に進化したのは駐車場です。例えば六本木の駅近くの駐車場は、月極めだと10万円ですが、時間貸しにすると月35万円になる場合もあります。不動産は貸す時間を小分けにすればするほど収益性が高まるのです。

 我々もさまざまな物件を取り扱っています。駅前で新しい物件が利回りがよいわけではありません。駅から遠く、築年数が経っている、地下階の物件でも、内装さえインスタ映えするようなものに作り込み、レビューの評価が上がれば物件の物理的条件は関係なくなります。
 
スペースマーケットの自社物件、fika。上北沢は北欧風の内装が人気。空き家だった物件をスペースマーケットの社員自らが改装した

 例えば美容室も選び方としては、「ホットペッパービューティ」などが使われています。昔はよいロケーションの路面店であることが成功する美容室の条件でした。今は、口コミサイトのレビューの高さ、価格、内装などですね。私も利用しますが、新宿のエレベーターもないような築年数が古い雑居ビルで、「大丈夫かな?」と思って扉を開けると内装がとてもきれいだったりします。

 我々の物件も、そういったパターンが多いです。レビューを見ると「本当にここ大丈夫かな?と思ったけど、入ったらきれいでした。リーズナブルで、大変満足しました」という書き込みがあります。たくさんレビューがついていると、そちらが重要になってくるのです。つまり、建物の外観で期待値が下がった状態で屋内に入ると、その落差でより満足度が上がるのです。
 
それぞれにデザインのコンセプトが異なるfika。桜上水(左)と新宿御苑(右)。新宿御苑は半地下だが質の高い内装で人気の物件
 このように、今までの不動産の常識はどんどん壊れてくると思います。アメリカではシラーズが破産法申請をしました。ショッピングモールも、ネットでこれだけモノが買える時代になり、それでも日本のEC化率が低いことを考えると、これからの店舗のあり方はどんどん変わっていくでしょう。
 

空間シェアのマッチングが
飲食店舗の活用を変える

重松:飲食店の利益率はそもそもが低い。一生懸命やってアルバイトを雇うのも大変。予約のドタキャンなどもある。それであれば、レンタルスペースとして貸した方が手離れがよいし、人を管理しなくてもよい。フードの仕入れも必要ありません。
 
 基本的にスペースマーケットは前払いの決済なのでドタキャンで売上を失う心配もありません。それに気づいたオーナーによって、人手不足のカフェやレストランが続々とレンタルスペースになっています。
 
自社メディア「BEYOND」で1日限定カフェの事例を紹介
https://beyond.spacemarket.com/experiences/1_daycafe_tamachi/

 ユーザーとしても、居酒屋や飲食店を利用すると、お通しや時間制限など飲食店都合のルールを面倒に思うことがあります。レンタルスペースであれば、好きなお酒やご飯を持ち込んで、好きな映像や音楽を大画面のモニターなどで見ながら、時間を楽しむことができます。

 最近であれば、amazon prime videoやNetflixなどの動画配信サービスに誰かが契約していれば、画面に映してみんなでスポーツ観戦や映画観賞ができます。今までスポーツバーで一緒に観戦していたものが、レンタルスペースに置き換わっている状況です。
 
ハウスパーティという新たなトレンドに火をつけたハロウィンパーティ

池澤:デジタルネーティブ世代が作っている新しい消費傾向のようにも思えます。インスタ映えとユーザーのレビューも鍵のようですね。
 

すべての不動産カテゴリーは
時間貸しの道を歩むようになる

池澤:引き続き、今後の可能性と展開をお聞きしたいのですが、重松さん、今後はどうなっていくのでしょうか?

重松:レンタルスペースは、まだまだ市場があります。というか、まだ認知度が圧倒的に低い状況です。

 最近のリサーチでは、カラオケボックスやカーシェアを使う人の動向を見ると、本来の使用方法ではなく、自動車の中で子どもをあやしていたり、会議をしたり、昼寝をしたり、カラオケボックスも打ち合わせに使われています。つまり、プライベートな空間が大切なのです。でも、そういう使い勝手のよい空間が日本には圧倒的に足りないと思います。

 そういった空間を自由に使えるITのインフラが増えれば、ポップアップショップも増えるし、料理教室も増えるし、ビジネスを興す人も現れます。不動産自体が古い業界なので、チャンスの塊です。基本的にはあらゆる不動産のカテゴリー、オフィスや飲食店、小売、住宅も時間貸しの道を歩んでいくと思います。
 
平成28(2016)年12月4日~24日に開催された「とびっきりParty Market with PERRIER 」。
ネスレ日本の発売するペリエのイベント。ペリエカラーの装飾を施した会場でペリエを使ったカクテルなどを提供

 1週間単位で自分の家を変える人も出てきてもよいでしょう。オフィスではそういったスタイルが登場し始めています。ポップアップストアのニーズが高いのは、1週間や1ヶ月でトライアルをして、本当にそのビジネスに可能性があるのであれば、もっと借りて勝負しようとなるからです。

池澤:なるほど、ありがとうございます。
 

廃業率の高い飲食業で
不幸な起業を減らしたい

池澤:西浦さん、最近では「軒先レストラン」をやられているとお聞きしました。その展開についてお聞きできますか?
軒先が2018年5月から吉野家ホールディングスと始めた「軒先レストラン」 https://business.nokisaki.com/cp/restaurant

西浦:先ほど、重松さんのお話のなかで、飲食店のオーナーが人材不足だという話題がありました。本当はランチもやりたいけど、人材不足で出来ないので、その時間帯だけ場所を貸して副収入を得られているというケースもあります。飲食店は、数ある業種のなかでも廃業率が高い業種です。

 私は、もともと雑貨を販売したくて、お店を持つのが難しいから短期でお店を借りようとした経験があります。飲食業は、その物販よりも廃業率が高く、比率は15%に上るそうです。主婦の方がカフェを始めたり、リタイアされた方が退職金をすべてつぎ込んでラーメン店に挑戦したりしています。

 しかし、個人の方がトライするには飲食業は色々な意味でハードルが高くて、成功する確率はすごく低いと思います。

 そのハードルを高くしているのはイニシャルコストだと思います。保証金を6カ月、9カ月払って、内装工事費を数百万かける。やっと始めたけれどなかなかうまくいかずに半年で閉店してしまう。そういった不幸なストーリーをなくしたいと思っています。
 

飲食店開業のハードルを下げる
「軒先レストラン」がサービス開始

 もともと、私は商売される方を応援したいという気持ちで始めました。スペースのマッチングのノウハウはありましたが、飲食業のノウハウはありませんでした。ですので、飲食を始めたい方へのマッチングには二の足を踏んでいたのです。

 今年の5月に牛丼の吉野家さんと業務提携させていただいて、飲食のノウハウは吉野家さんが提供してくださって、スペースのマッチングは弊社がやるということで、共同で「軒先レストラン」という事業をやっています。
 
バーを借りて、日中にランチを営業するイメージを紹介

 非常に面白い利用事例がたくさん出ています。例えば、渾身のカレーでお店を持ちたい方がいるとします。吉野家さんクラスの飲食店を出店するには4,000万円から5,000万円かかるそうです。個人であれば、そこまではいかないにしても、数百万円から1,000万円はかかるでしょう。

 その初期投資を抑えて、数週間や1カ月でもカレーを売ってみることができれば、飲食店をやろうと思っている方のハードルを下げられます。万が一失敗しても痛みが非常に小さいかたちで終われるようなインフラになったらよいと思っています。
軒先レストランの紹介事例。自身の店舗を準備しながら、昼のみ店舗を借りて料理の技術を維持
 

インフラへの投資が軽くなれば
飲食の新業態が生まれるはず

 夜はバーになるけれど、昼間の時間帯が空いています。そういうところを貸し出しいただき、そこにカレー屋さんが出る。最近、「間借りカレー」や「ヤドカリカレー」ってお聞きになったこと、ありませんか?

 ゴールデン街で神出鬼没のカレー屋さんが話題になっています。カレーはお鍋とご飯があればできるので、間借りカレーがすごく増えています。今、カレーだけじゃなくて、色々なメニューの方がいらっしゃって、つい最近は、RADWIMPSの元ギタリストの方が、汁なし担々麺のお店を渋谷にオープンしました。
軒先レストランには約100件の物件が登録されている(2018年11月12日現在)

 それと、「鬼ビーフ」さんといって、ローストビーフ丼ですね。インスタ映えするようなメガ盛りローストビーフをやっているのですが、なんと、すべて間借りでフランチャイズ展開までされているんですね。

 飲食店は固定費のなかで、家賃と人件費が大きのですが、そこを変動費に変えてしまって、どんどん出店して、それをフランチャイズにまでしてしまう。ローストビーフ丼って、お肉の塊を本部から送り、お店ではお肉をスライスして盛るだけなのでフランチャイズ展開しやすいと思います。

 そういったインフラの部分が軽くなることで、いろいろな業態が出てくるのは非常に楽しみですね。プロの方だけでなく、素人で飲食をやってみたい方の足がかりになると面白いと思います。

池澤:画期的ですね。空間ビジネスの風景がだいぶ変わってきそうです。担当研究員の中郡さん、お二人のお話をお聞きしてどうですか?

中郡:重松様、西浦様、さまざまな発想のシーズをいただきましてありがとうございました。

 空間とは本来は固定的な資産ではなく、環境や価値観によって可変していくものです。これまでは空間の特性に合わせて所有者や利用者がその使用目的を限定するのが常識でしたが、空間のシェアにより、同じ空間でも使用目的に合わせてマルチに空間を活用できるようになりました。
 
中郡伸一(にぎわい空間研究所 所長)

 つまり、空間の特性からコトを生みだすだけではなく、コトを生み出すために空間を選ぶという価値観が必要になりました。空間の制約に捉われない空間事業の創造には無限の可能性があります。空間クリエイターの腕の見せどころです。

 にぎわい空間研究所では、さらなる空間事業の可能性を追求していきたいと思います。

池澤:リアル空間ビジネスが今、大きく変わろうとしています。今後もその動向に注目していきたいです。ありがとうございました。
 
 



【Q & Aセッションでの質疑応答】
 

軒先のサービスを利用できるのは
必要な許認可や免許を整えた方のみ

質問者①:軒先の西浦様にお伺いします。軒先を活用して飲食店などの事業をされる方がいます。その際、道路使用許可とか飲食業の開業許可が発生すると思います。御社のサービスではどのように対応していますか?

西浦:まず、利用者が使用するスペースは私有地です。道路の使用許可は必要ありません。営業に際して、許可が必要になる業種業態もあります。例えばキッチンカーだと移動販売車ごとに出店する都道府県の自治体の営業許可書が必要になります。
 

 弊社の場合は、最初にユーザー登録してもらう際に、どのような業種業態で出店されるかを明記してもらい、必要な営業許可書があればすべて提出してもらっています。飲食業の場合は食中毒の際の対応としてPL保険への加入が必要です。自動車での出店であれば対人対物保険の書類も提出してもらいます。

 基本的には出店に際して必要な許認可や免許がすべて整った方のみご利用いただけるサービスです。
 

アナログとウェブを融合し、
サービスの認知度を上げていく

質問者②:西浦さんに質問です。サービスの認知度を今後、どのように上げていきますか?
 

西浦:シェアリングサービス自体の認知度がまだ低いと思っています。場所を提供してくれている不動産オーナーには、こういったシェアサービスをご存知ない方も数多くいます。

 出店するユーザーに関してはウェブマーケティングを使って集客していますが、場所を提供する方にどうやってリーチするかがビジネスのドライバーになっていて、ITサービスでありながらも、そこはアナログな手法も使っています。

 不動産会社と連携して、管理している物件のオーナーを紹介してもらうこともあります。もっとアナログなことで言うと、折り込み広告をポスティングすることもあります。そういった不動産オーナーに合わせた獲得手法も取っています。

 シェアリングサービスが普及するには時間がかかります。ステージを経ながら広がっていくとは思いますが、最終的には場所を貸してくれる方もウェブで完結できるようなステージに持っていければいいなと思います。

 現時点では、アナログな手法も、ウェブの手法もミックスしたかたちで最適化を図ることが必要だと思います。地道かつスピーディにやっていくことが肝になると考えています。(了)
 

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
 
 
 
 

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