入谷:一定のマーケットができてからということですね。
福美:間借りの場合、昼と夜で別の飲食店が営業します。夜の常連さんが昼も来るような相乗効果は実際にあるのでしょうか?
武重:夜のオーナーがランチに誘導するケースもありますし、その逆もあります。お客様が「ランチも夜のオーナーが営業している」と思っている場合もあります。そもそもは昼間営業していなかったお店の場合、最初はランチの集客で苦労します。SNSやビラでお客さんを集めますが、なかなか苦しいお店もあります。今の消費者は間借りの風情を含めて楽しんでいると思います。恵比寿の小料理屋にコロンビア人が大挙するケースも、その一例です。
福美:すごく面白いと思いました。
武重:そんな事例ばかりなんですよ。ここ怪しいね、となる。昔はあまりそういうことはなかったと思いますが、今の消費者はその怪しさもネタにして、SNSでシェアしてくれます。そういうのも含めて楽しんでいただけているのかなと思います。
入谷:違う意味での隠れ家ですね。
中郡:テック化のひとつの妙はマッチングだと思います。先ほどのコロンビア料理店のようなありえない出会いを生み、地域を活性化し、飲食店の早期廃業という社会問題を解決できる。このことは軒先レストランを始める時点で予測していたことですか?
武重:そうですね。軒先レストランを始める動機がそこにありましたから。ただ、現状では東京に偏っており、都内でのマッチング率が8割ぐらいです。地方はまだまだこれからです。今後、おそらく東京でやっていることは地方に拡散していくと思います。
池澤:ありがとうございます。デジタルプラットフォームを作られたことが、間借り飲食店の勇気と元気の源になっていると思います。それを「人間AI」で支えているというのが共感できました。
世の中の賃貸住宅ニーズに対応し
コンシェルジュなどサービスを拡充
池澤:それではセッション3を担当された福美さんにもお話を聞きたいと思います。
福美:セッション3のキーワードはやはりスマホだと思います。今、女性や若者を中心に究極のスマホ社会がやって来ようとしていると思います。ただ、事業の決定権を持つシニア層の方々がこの変化に気づけていないのでは、と感じています。スマホ化に対応するためにどんな工夫が必要か、そこを話し合っていきたいと思います。種さん、いかがですか?
種:意思決定者という意味では、高齢の方のほうが不動産資産をお持ちです。そこをどう取り込むかというのは、大きな課題になると思います。OYO LIFEの利用者の話をすると70代の入居者もいらっしゃいます。高齢者の利用例もあります。先ほどの講演で「内見はできません」と言い切っていましたが、内見を要望する声はすごく多いです。その対応も検討し始めています(※1)。また、通話での質問がしたいという方もたくさんいます。最近はコンシェルジュサービスを立ち上げました。当初はすべてスマホで完結させたかったのですが、やはり、世の中の事情を考えると、そうじゃない人というのも多数いらっしゃいます。今、サービスを徐々に変えているのが現状です。
福美:なるほど。人を介することがまだ必要で、すべてテック化するのには課題があるということですね。
中郡:大きな投資を背景に誕生したOYO LIFE。生まれながらにして「テック企業」を自負できるのは、うらやましい限りです。赤木さん、不動産テック協会はOYO LIFEをどう見ているのでしょうか?
赤木:不動産の常識を違う側面から破って入ってこられている意味では、不動産の奥行きや広がりを拡大させていると思います。値段の設定やサブスクリプションの導入も含め、不動産にはなかった収益をどのようなかたちで定着させるのかに注目しています。
池澤:OYO LIFEの究極は「住まいのプラットフォーム」になること。壮大なビジョンを描かれています。期待したいですね。こういった議論を踏まえたうえで、ディスプレイテックの可能性と未来、その進め方について議論を深めていきたいと思います。
入谷:冒頭で所長が提案していた通り、3D CADをベースにしたコミュニケーションや入場者管理システム、VR・MRなど、ディスプレイ業界にもデジタルイノベーションは起こっています。デジタルイノベーションを引き起こすための基盤整備、そしてある程度のマーケットがないとデジタル化ができないと思います。
中郡:種さんのお話にもありましたが、テック化していくうえでは、人を介したカスタマイズも必要だと思います。武重さんの人間AIもそうですね。人間が担う部分も確実にあるということでしょう。一方で、カオスマップを見ていると、プレイヤー同士の連携連動が非常に重要だと思います。ディスプレイ業界のテック化も含めて種さんのご意見をお聞きしたいと思います。
種:ディスプレイ領域のフォローはなかなかできていませんが、同じリアル空間という意味では、共通点はあるのかなと思います。まず、先ほどもありましたが、効率化を追求していくのがテクノロジーを活用できる部分です。もうひとつはテックでしかできないことを提供しないと、テクノロジーを導入している意味がありません。OYO LIFEもテック企業ですが、すべてのテックを自社開発しています。自社開発の苦労はあります。例えば、「セールスフォース」などのサービスを使ってしまえばよいものを、わざわざ社内で内製化します。とても苦労します。その結果、他では絶対にできないサービスが生み出せるのがテックの醍醐味です。
先日、OYO LIFEでは物件のセールを行いました。不動産業界ではできないことで、1時間で100室ぐらいを一気に売りました。これはテックがあって初めてできたことです。ディスプレイ業界も同じように、テックでなければできないことの付加価値を追求することに尽きるのかなと思います。
中郡:今、内製化のお話が出ました。やはり内製化していくことはテック化していくうえで重要でしょうか?
種:我々はそう信じています。外注すると早いので楽です。でも、不動産の場合はカスタマイズをたくさんしなくはなりません。日本の商習慣を日本のエンジニアに説明しても分かってもらえなくて、とても苦労する場面があります。自社でエンジニアリングを内製化し、サービスを磨き続け、一生懸命投資することで、結果的に他社が提供できないサービス、利便性につながっていくのだと思います。
宮:自社で内製化しなければテック化できることが見えてこない、とひしひしと感じました。
入谷:ディスプレイ業界は外注率が高い業界で、自分たちでモノを作っているとはいえ、いろいろな方の協力を得ている状況なので、そこに内製化という大きなオモリを置いたとき、どれくらいの事業反発が生じるか分析してみたいと思います。自分たちのサービスを信念をもって作り出すということが、テック化につながるのかなと思いました。
中郡:すごく大切なヒントだと思います。
池澤:今日は不動産テックのカオスマップ作成と協会設立でテック化の旋風を巻き起こしている赤木さん。飲食のあり方を変えることを目指し、間借り飲食店を皮切りに誰もがアイデアさえあれば取り組める飲食の世界を実現しようとする吉野家ホールディングスの武重さん。そして、スマホひとつで賃貸不動産が借りられるという、今までありえなかったことを成し遂げ、その先には住まいのプラットフォーム化を目指すという壮大な理想をお持ちのOYO LIFEの種さん。三人三様の面白いお話が聞けたかと思います。
その先には、ディスプレイテックの未来も描ける夢のあるお話をお聞きできたと思います。本日会場にお越しの方々もいろいろな産業界でがんばっていると思いますが、リアル空間ビジネスの未来を切り開くために、これを機にテック化と向き合ってはいかがでしょうか。本日はありがとうございました。(了)
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