「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

にぎわい空間創出FORUM2019<br />
トークセッション<br />
「『テック化』がもたらす空間ビジネスの未来」<br />
Event Report

にぎわい空間創出FORUM2019
トークセッション
「『テック化』がもたらす空間ビジネスの未来」


2020.03.26facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会

パネラー
赤木 正幸 氏(一般社団法人不動産テック協会 代表理事、リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO)
武重 準 氏(株式会社吉野家ホールデイングスグループ企画室 特命担当部長)
種 良典 氏(OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社 東京ゼネラルマネージャー)
中郡 伸一(にぎわい空間研究所 所長)
入谷 義彦(にぎわい空間研究所 主席研究員)
宮 大悟(にぎわい空間研究所 主任研究員)
福美 かおり(にぎわい空間研究所 主任研究員)
 
モデレータ
池澤 守 氏
にぎわい空間研究所 アドバイザー
株式会社池澤守企画 代表取締役、テーマパークプロデューサー
※昭和54(1979)年、株式会社ナムコ入社。テーマパーク「ナムコ・ナンジャタウン」やフードテーマパーク「自由が丘スイーツフォレスト」等、テーマ化手法を活用した数々の集客施設をプロデュースしてきた。平成27(2015)年に独立(現職)。様々な業界の企画アドバイザーを務めながら、ネット全盛時代における “リアルの可能性”を追い求めている。
 

テックによって業務を効率化し
お客様に費やす時間を生み出す

池澤:トークセッションでは、3名の講演者のお話を受けて、「テック化がもたらす空間ビジネスの未来」について議論を深めていきたいと思います。まずは、セッション1を担当された主任研究員の宮さん、いかがだったでしょうか?
:赤木さんにお伺いしたいのですが、我々のディスプレイ業界、その他の業界もまだまだテック化が進んでいない状況ですが、テック化を進めるうえでのポイントは何でしょうか?
 

赤木:大きなテーマですね(笑)。私の講演でも触れましたが、テック化できずにアナログが続いているのがポスティングです。みなさんも経験あると思いますが、毎日、大量のチラシがポストに入ります。その場にいる人に、無理やりにでも目に止める方法はポスティングしかないですね。不動産の世界では「捨て看板」があります。地下鉄の出口を上がったところに、「近隣に掘り出し物あります」という看板が設置されています。違法です。リアルな空間とテックの最後の部分がまだ結びついていないので、そこで面白いサービスがあればと日々考えています。
池澤:既存ビジネスといかに融合させるかが鍵のようですね。
 

:いつかポスティングを超えるテックが生まれてくるんだろうなと楽しみにしています。
入谷:講演の中で「勘と経験と度胸」が不動産業界を支えていた3つの柱だというお話がありました。ディスプレイ業界でも同じようなお話を聞きます。この3つをいかにテック化していくかも、不動産テックでは重要だと理解しました。ディスプレイ業界では、デジタルでいかにサービスを取り揃えられるかに挑み始めています。不動産テックとして、ディスプレイ業界に助言いただけることはありますか?
赤木:再び大きなテーマですね(笑)。まず、「勘と経験と度胸」ですが、不動産売買では大きな金額が動くときは、やはり人間が出ざるをえない状況です。数年後、変わってくる可能性はあります。不動産テックの導入については、「まずは効率を上げましょう」と提案します。私も勤め人のときは、「付加価値の高い仕事をしろ」とよく上司から言われました。でも、時間がないですね。テックで一番得意なのは効率を上げて、時間を作って、そこでより人間的なところに力を費やすというのが、第1フェーズなのかなと思います。
入谷:我々も効率というものを考えて、そこに新たに人間が投資できるものは何かを追求したいと思います。
池澤:働き方改革のようなお話ですね。
中郡:赤木さん、研究所では「不動産テックカオスマップ」のブレイクに注目しています。講演では「あまり予測していなかった」とおっしゃっていました。そうだったんですか?
赤木:まず、知り合いで飲みながら作って、取りあえず発表してみました。大した反響はないだろうと思っていたら結構な反応があり、びっくりしましたね。カオスマップが縁で、既存の不動産業界の方とお話をする機会が生まれました。既存の不動産業と敵対するのではなく、テックと不動産が寄り添って、新たな不動産業の世界を作ることが目的であると説明させていただきました。
池澤:それだけカオスマップにはインパクトがあったのですね。
赤木:既存の不動産業界の方々の方が焦っていますね。不動産業界も、飲食業界に似て、駅前の中小零細企業が厳しいというイメージがあり、事業承継がうまくいっていません。大手不動産会社はどんどんテクノロジーを投入しています。差が開く一方なのです。すごい焦りがあるようです。
 

中郡:カオスマップでは、プレイヤーを集めていくわけですが、それがテック化の肝ですか?
赤木:不動産テックの場合は、弊社のように不動産をやっていた人間がテックに入るケースと、逆に、テックの会社が不動産に入るケースがあります。それぞれのスタンスが良い意味で異なります。そこが今、良い具合に融合しつつあるのかなと思います。不動産の理屈でテックサービスを作る良さもあります。一方で不動産では見えてこない外からの視点で新たなサービスを作る良さもあります。先ほどのOYO LIFEさんは、ホテル事業という似て非なる、でも不動産には使える発想を持った人たちが不動産業界に入ってきました。すごく面白いなと思います。
中郡:不動産テックカオスマップも5版になって、当初のエントリー事業者の淘汰が始まり、さらにコアなプレイヤーの集積にしていこうということなのですね。
赤木:受けないサービスは、受けません。これには2パターンあります。不動産側が作ったけれど、プログラマーやエンジニアとうまく仕事ができず、開発がストップしたパターンがあります。逆に、テック企業がサービスを開発して、不動産業の商習慣とまったく合っておらず、ダメになるパターン。いろいろなパターンが出始めています。
 

池澤:カオスマップによってテック化を可視化してみる。それが世の中に新しいインパクトを与えて、何かが始まるということですね。
 

1,000件規模への拡大を目安に
テックへの投資を見極める
 
池澤:セッション2を担当された主席研究員の入谷さん、セッションはいかがだったでしょうか?
入谷:今回、武重さんが手がけている軒先レストランの研究をしましたが、テック化のポイントをお聞きしたいと思います。我々としては、単なるデジタル化ではないと思います。講演であったように、社会課題の解決、ライフスタイルの提案、新しい市場を生み出すという点だったと思います。いかがでしょうか。
 
 
武重:テック化できているように見えて、我々はまだ全然できていなくて、さきほどの「第1フェーズ」以前です。実際には、私のようなスタッフが「人間AI」と化して、アナログで問題を解決している状況です。まだまだこれからです。今後、アナログでやっていることをテクノロジーに切り替えようと思います。いきなりテック化するのは危険だと思います。法整備、保険、届出などを一つひとつ片付けながら、テック化を進めていきます。来春には第1フェーズに入れるかなと思います。
入谷:我々も職人が必要な業界です。人の手を加えることでしか、表現できないことがたくさんあります。少しずつテクノロジー化をやっていきたいと思っています。いつぐらいから攻めるおつもりでしょうか?
武重:現在、350の物件登録があるので、1,000件を超えると事業化を推進していけるなと思います。今の時点から投資をしてしまうと、ピントのずれたサービスができる可能性が高いと感じています。今、我々は「軒先ビジネス」という仕組みの中に間借りしている状況です。先ほどご紹介した間借り飲食店の方々とまったく同じです。これからお客様の反応をみながら、投資の方向を見極めていきたいと考えています。
 

入谷:一定のマーケットができてからということですね。
福美:間借りの場合、昼と夜で別の飲食店が営業します。夜の常連さんが昼も来るような相乗効果は実際にあるのでしょうか?
武重:夜のオーナーがランチに誘導するケースもありますし、その逆もあります。お客様が「ランチも夜のオーナーが営業している」と思っている場合もあります。そもそもは昼間営業していなかったお店の場合、最初はランチの集客で苦労します。SNSやビラでお客さんを集めますが、なかなか苦しいお店もあります。今の消費者は間借りの風情を含めて楽しんでいると思います。恵比寿の小料理屋にコロンビア人が大挙するケースも、その一例です。
福美:すごく面白いと思いました。
武重:そんな事例ばかりなんですよ。ここ怪しいね、となる。昔はあまりそういうことはなかったと思いますが、今の消費者はその怪しさもネタにして、SNSでシェアしてくれます。そういうのも含めて楽しんでいただけているのかなと思います。
入谷:違う意味での隠れ家ですね。
中郡:テック化のひとつの妙はマッチングだと思います。先ほどのコロンビア料理店のようなありえない出会いを生み、地域を活性化し、飲食店の早期廃業という社会問題を解決できる。このことは軒先レストランを始める時点で予測していたことですか?
武重:そうですね。軒先レストランを始める動機がそこにありましたから。ただ、現状では東京に偏っており、都内でのマッチング率が8割ぐらいです。地方はまだまだこれからです。今後、おそらく東京でやっていることは地方に拡散していくと思います。
池澤:ありがとうございます。デジタルプラットフォームを作られたことが、間借り飲食店の勇気と元気の源になっていると思います。それを「人間AI」で支えているというのが共感できました。
 

世の中の賃貸住宅ニーズに対応し
コンシェルジュなどサービスを拡充
 
池澤:それではセッション3を担当された福美さんにもお話を聞きたいと思います。
福美:セッション3のキーワードはやはりスマホだと思います。今、女性や若者を中心に究極のスマホ社会がやって来ようとしていると思います。ただ、事業の決定権を持つシニア層の方々がこの変化に気づけていないのでは、と感じています。スマホ化に対応するためにどんな工夫が必要か、そこを話し合っていきたいと思います。種さん、いかがですか?
 
 
 
:意思決定者という意味では、高齢の方のほうが不動産資産をお持ちです。そこをどう取り込むかというのは、大きな課題になると思います。OYO LIFEの利用者の話をすると70代の入居者もいらっしゃいます。高齢者の利用例もあります。先ほどの講演で「内見はできません」と言い切っていましたが、内見を要望する声はすごく多いです。その対応も検討し始めています(※1)。また、通話での質問がしたいという方もたくさんいます。最近はコンシェルジュサービスを立ち上げました。当初はすべてスマホで完結させたかったのですが、やはり、世の中の事情を考えると、そうじゃない人というのも多数いらっしゃいます。今、サービスを徐々に変えているのが現状です。
 
※1:OYO LIFEでは本フォーラム後の令和元(2019)年12月6日から事前の内見サービスを開始。サイト上で内見日時の予約が可能となった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000041664.html
 
 
福美:なるほど。人を介することがまだ必要で、すべてテック化するのには課題があるということですね。
中郡:大きな投資を背景に誕生したOYO LIFE。生まれながらにして「テック企業」を自負できるのは、うらやましい限りです。赤木さん、不動産テック協会はOYO LIFEをどう見ているのでしょうか?
赤木:不動産の常識を違う側面から破って入ってこられている意味では、不動産の奥行きや広がりを拡大させていると思います。値段の設定やサブスクリプションの導入も含め、不動産にはなかった収益をどのようなかたちで定着させるのかに注目しています。
池澤:OYO LIFEの究極は「住まいのプラットフォーム」になること。壮大なビジョンを描かれています。期待したいですね。こういった議論を踏まえたうえで、ディスプレイテックの可能性と未来、その進め方について議論を深めていきたいと思います。
 
 
 
入谷:冒頭で所長が提案していた通り、3D CADをベースにしたコミュニケーションや入場者管理システム、VR・MRなど、ディスプレイ業界にもデジタルイノベーションは起こっています。デジタルイノベーションを引き起こすための基盤整備、そしてある程度のマーケットがないとデジタル化ができないと思います。
中郡:種さんのお話にもありましたが、テック化していくうえでは、人を介したカスタマイズも必要だと思います。武重さんの人間AIもそうですね。人間が担う部分も確実にあるということでしょう。一方で、カオスマップを見ていると、プレイヤー同士の連携連動が非常に重要だと思います。ディスプレイ業界のテック化も含めて種さんのご意見をお聞きしたいと思います。
:ディスプレイ領域のフォローはなかなかできていませんが、同じリアル空間という意味では、共通点はあるのかなと思います。まず、先ほどもありましたが、効率化を追求していくのがテクノロジーを活用できる部分です。もうひとつはテックでしかできないことを提供しないと、テクノロジーを導入している意味がありません。OYO LIFEもテック企業ですが、すべてのテックを自社開発しています。自社開発の苦労はあります。例えば、「セールスフォース」などのサービスを使ってしまえばよいものを、わざわざ社内で内製化します。とても苦労します。その結果、他では絶対にできないサービスが生み出せるのがテックの醍醐味です。
先日、OYO LIFEでは物件のセールを行いました。不動産業界ではできないことで、1時間で100室ぐらいを一気に売りました。これはテックがあって初めてできたことです。ディスプレイ業界も同じように、テックでなければできないことの付加価値を追求することに尽きるのかなと思います。
中郡:今、内製化のお話が出ました。やはり内製化していくことはテック化していくうえで重要でしょうか?
:我々はそう信じています。外注すると早いので楽です。でも、不動産の場合はカスタマイズをたくさんしなくはなりません。日本の商習慣を日本のエンジニアに説明しても分かってもらえなくて、とても苦労する場面があります。自社でエンジニアリングを内製化し、サービスを磨き続け、一生懸命投資することで、結果的に他社が提供できないサービス、利便性につながっていくのだと思います。
:自社で内製化しなければテック化できることが見えてこない、とひしひしと感じました。
入谷:ディスプレイ業界は外注率が高い業界で、自分たちでモノを作っているとはいえ、いろいろな方の協力を得ている状況なので、そこに内製化という大きなオモリを置いたとき、どれくらいの事業反発が生じるか分析してみたいと思います。自分たちのサービスを信念をもって作り出すということが、テック化につながるのかなと思いました。
中郡:すごく大切なヒントだと思います。
 

池澤:今日は不動産テックのカオスマップ作成と協会設立でテック化の旋風を巻き起こしている赤木さん。飲食のあり方を変えることを目指し、間借り飲食店を皮切りに誰もがアイデアさえあれば取り組める飲食の世界を実現しようとする吉野家ホールディングスの武重さん。そして、スマホひとつで賃貸不動産が借りられるという、今までありえなかったことを成し遂げ、その先には住まいのプラットフォーム化を目指すという壮大な理想をお持ちのOYO LIFEの種さん。三人三様の面白いお話が聞けたかと思います。
 その先には、ディスプレイテックの未来も描ける夢のあるお話をお聞きできたと思います。本日会場にお越しの方々もいろいろな産業界でがんばっていると思いますが、リアル空間ビジネスの未来を切り開くために、これを機にテック化と向き合ってはいかがでしょうか。本日はありがとうございました。(了)
 


記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。


 
 

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